詐騎士


1 もしもノイリが誘拐されていなかった時のるーちゃん 王子様から見たるーちゃん達

 天の御使いが来る。
 崇める予定の天族の女だ。そのために片田舎で大切に大切に育てられた、純粋で無垢な何も知らない女だ。かなりの美女らしいが僕はその点についてはあまり興味がない。それでもこの僕が護衛としてつくように命じられた以上は、傷一つ付くようなことがあってはならない。
 他の面々を見る。
 信頼と見栄えを重視して、堅苦しいほど真面目な男か恋人一筋の者達を選んだ。内の一人には、天族の女を育てたオブゼーク家と懇意にしているゼクセンもいる。天族と顔を合わせたことがあるのは彼だけで、知らぬ者ばかりよりは彼女も警戒しないだろう。何よりも、見た目が女のようで、女に警戒されているところを見たことがないのが一番大きい利点だ。
 馬車の到着が近いと知らされて、迎えるために並ぶことしばし、馬車が見え皆が緊張して背筋を伸ばす。
 二頭立ての馬車は止まり、使用人が踏み台を置いてドアを開く。まず出てきたのは少年だ。
「ルーフェスだっ」
 ゼクセンが犬のように分かりやすい反応を見せる。あれがオブゼーク家の次男坊らしい。病弱すぎて、天族の歌がなければとうの昔に死んでいた少年。
 続いて天族の女が出てくる。ほっそりとしたまさに天の使いにふさわしい美女だ。僕と同じ年らしいが、もう少し幼く見える。白い翼を出口に引っかけ、中にいる誰かがそれを外してこけるようにして出てくる。ルーフェスがそれを受け止めたので大事には至らない。
「ありがとう、ルゼ」
 ルーフェスは中の誰かに声をかける。降りてきたのは、性別不明の天族以上に痩せた魔術師。おそらく、魔術師だろう。神官の法衣に少しばかり雰囲気の似たローブを着ている。異様に細いし、長い髪を編んで肩に垂らしているから、女だろう。
 結果、転ぶことになった原因にように見えたが、なぜルーフェスはあれに感謝を述べたのだろう。
「ノイリ、落ち着いて」
「ご、ごめんね」
 天族は翼を小さくたたんで謝る。この魔術師は何なのだろうか。
「よくぞいらした。歓迎する」
 僕が声をかけ、皆は膝をつく。
 見栄えが良いのを揃えた上、白凱だ。女ならばたちまち浮かれるような場面である。しかし天族の女は魔術師の背に隠れてしまった。
「お出迎えは有り難いのですがどうかお控え下さい。ノイリ様はお疲れです」
 魔術師は笑みを浮かべて言う。食えなさそうな奴だ。
「ルゼちゃん、この人達だれ?」
「騎士の方々だよ。ノイリはあまり会ったことがないけど、昔助けてもらったこともあるだろう。彼らは鎧を着ていないけどね」
 地方に行くと、魔物相手では鎧が重いという理由から、軽装の者も多いという。
「僕はこれからあなたの護衛となりますギルネストと申します。アリハンド王の第四子、です」
 不安にさせてもいけないので、手始めに身分を明かす。
「?」
 天族の女はきょとんとして、ぽけーっと僕を見ている。騙されそうな女だ。
「四番目の王子様が護衛になってくれるそうだよ」
「王子様?」
「そうらしい」
「想像と違うけど格好良いです」
 どんな王子を想像していたのだろうか。無垢に育てるというのは、世間知らずに育てるという意味でもある。頭の良し悪しはともかく、間違いなく騙されやすいタイプだ。
「良かったね、ノイリ」
「はい」
 いかにも愚鈍そうでも、美人は得をするものだ。笑顔一つで帳消しになる。それどころかその愚鈍さによって、より好意的になる者もいるだろう。
「あ、ルーフェス様、ゼクセン様がいます」
「彼も白凱の騎士になったんだよ」
「鎧でも可愛いです」
「そうだね。ゼクセンは場違いだね」
 ルーフェスは親友だとゼクセンは言っていたが、あの天族並みに無垢な彼にはほどよい感じに毒のある友人だ。セットになると、いい具合にバランスが取れそうである。
「まずは部屋にご案内いたしましょう。荷物はこの者達が運びます」
「ありがとうございます、王子様」
 聖女の荷物だ。下の者には触れさせられない。
 しかし、その天使にとろそうな声で『王子様』と呼ばれるのも複雑な心境だ。
「その前にいくつか確認をよろしいでしょうか」
 ルゼという魔術師が歩き出そうとした天族を止める。
「何か入り用か」
「水を」
「それは用意してある」
「それは差し出がましいことを申しました。差し出がましいついでにもう一つ。
 もしも部屋に果物や菓子類が用意してある場合は引き払わせてください。ノイリが口にするものは私が目を通してから、もしくは知識を持った栄養士によって管理された物だけを。それ以外はこの方の目に入れることも防いでください」
 あまり食べないとは聞いているが、なぜそこまでしなければならないのだろう。疑っているのだろうか。毒殺などされたら、一番の責任は僕に来るから徹底しているつもりだ。
 顔に出てしまったのか、彼女は馬車の中に戻り、冊子を腕に抱えて出てきた。それを手渡される。
「高貴なお方に私のような下賤なものが口をきくなど本来なら許されることではないと存じておりますが、ノイリの近くにおられる方にはどうしても必要不可欠なことです。こちらに書かれた事は厳守をお願いしたく存じます」
 天族に話しかけていたときとは打って変わった慇懃な言葉だ。天族に話しかけているときが地なのだろう。女だとは思うが、ますます分からない。顔は男にしては整っているが、ゼクセンという見本があるので、やはり分からない。
 しぶしぶと、冊子に目を通す。
 事細かに天族についての生態が書かれているが、目を見張ったのが一ページ目。
「何だ、これは」
「天族の飼い方……いえ、育て方です」
 飼い方……って。
「なぜこうも死ぬ死ぬと」
 大きな文字でこうすると死にます、ああすると死にますと、伝承にある悪魔のごときしぶとさと魔力を持つ、天族の飼い方とは思えない注意書きが並んでいるのだ。
「その通り、ノイリは人並みに食べては生死をさまよい、歌いすぎれば生死をさまよい、しかし歌わなければ弱り、喉が渇いたときに水を飲まなければ倒れられます。話以上に、大げさなほどの覚悟をもっていなければ、ノイリ様の健康は維持できません」
 カロリー計算の方法まで書かれている。
「見せては食べたがります。それを取り上げるのは心苦しいので、極力見せ無い方向でお願いします。すべては彼女のため」
 天族がショックを受けた様子で瞳に涙を浮かべている。
「ノイリ、美味しい水をもらいおう。食べ物は私が事前にチェックするから、今日はおばあちゃんが作ってくれたもので我慢する」
「うん。我慢する」
「都会なら、きっと美味しくて太りにくい食べ物があるから」
「本当?」
「きっと王子様が用意してくれるよ」
 唐突に、魔術師が人に押しつけてきた。
「本当?」
 青い瞳にじっと見つめられ、僕は戸惑った。子供のような女は、計算とか関係なく綺麗な瞳で見上げてくる。
「……探しておこう」
 他に言葉が見つからなかった。
「ありがとう王子様」
 天族が童女のように微笑む。
「申し訳ございません、”王子様”」
 魔術師が詐欺師のように微笑む。
 天族の『王子様』と違い、この魔術師の『王子様』は、腹立たしいものがあった。

 

2 超過保護傀儡術師

 

「それはそこに。それは楽器です。乱暴にするなら手を出さないでください」
 部屋に響く騎士達を顎で使う魔術師の声。よく通る声は耳に心地よい物だが、内容は乱暴で実に偉そうである。
 魔術師の後ろでぽけっとそれを見ている聖女ノイリ。完全に魔術師にすべてを任しきっている。
「ノイリ、もう少し待っていてろ。運び終わったら一服して、それから一緒に荷物を片付けよう」
「うん」
 ノイリは満面の笑顔で頷き、部下達が荷物を運び終えるのをまだかまだかと待つ。
 これらを用意したのはオブゼークだろう。その息子はのほほんとノイリの隣に座っている。
「ルーフェスだったか」
「あ、はい。殿下がお立ちなのに、申し訳ありません」
「いい」
 虚弱体質だとはゼクセンから聞いている。それに立っていろとは酷な話だ。僕の部下がそのようなことをすれば、もちろん立てなくなるまで可愛がってやるが、これは部下ではないのだ。
「あの魔術師は何だ?」
「ルゼはノイリの妹分で、侍女兼護衛です」
「護衛?」
「領内では最強でした。女同士だから、どこにでもついて行けるので重宝します」
 領内で最強。
 天使がいるという理由から、派遣される騎士も腕の良い者が多い。実際に僕が認めていた者も派遣されていた。弱いわけではない。
 女だというなら手加減していたのか、魔術で圧倒していたのか。
「魔術師は狭所では不利だろう」
「そんなことはありません。ルゼは優秀すぎるほどの傀儡術師です。普通には近づくことすら出来ません。魔術を封じる道具を使って近づいても、ルゼは普通に強いですから、普通に勝てる人はいませんよ」
 いないとまで言い切った。彼は笑顔のまま、キビキビと指示を出すルゼに声をかける。
「ルゼ、もしもだけどさ」
 彼女は振り返る。異様なほど細い女だ。男のような格好だが、腰などの身体の線が分かる部分は異様に細い。
「何ですか」
「もしもここにいる人達を皆殺しにしろといったら、どれぐらいかかる?」
「すぐに息の根を止めるなら一分はかかります。確実性を必要としないのでしたら、その王子様以外は瞬く間に。王子様は魔除けをつけているようですから、少し時間がかかります」
 皆はぎょっとして動きを止めた。
「そう。まあ、そんな必要もないから、もう少し気を抜いてもいいよ。君はいつも気を張りすぎている」
「私は気負っていないと歩くことも出来ません」
「ほどほどにね」
「ええ」
 彼女は凛々しい笑みを浮かべる。
 自信があるのかないのか分からない発言をする女だ。
「彼女、足を悪くしているんですよ。普通に歩けるふりが出来るぐらいの術師です。少し生意気かも知れませんが、一途なだけなので、あまり苛めないでやってくださいね。けっこう面白がり屋で可愛いところもありますから」
「苛める気などはなからない。身元が気になっただけだ」
 油断ならない女だという事だけは理解できた。


3 一途すぎて色々アブない傀儡術師


 傀儡術師ルゼ。
 身元が分からない女を天使の付き人などに出来ないと、とりあえず調べさせてみた。
 孤児で、ノイリが魔物に誘拐されそうになったときの生き残りで、施設を移動してからもずっと一緒にいるらしい。とくに不審な点はないし、引き離してはかわいそうだと側仕えを認めた。
 それはいいが、あの女、とにかくノイリに対して過保護である。
 護衛がノイリと話をしてでれでれしていると、笑顔で殺気を放ち追い払い、どんなところにいても得意の傀儡術でノイリに介入する。他人の身体を乗っ取るなど朝飯前。寝るときも同じベッド。侍女のようなことから、護衛まで、一人でこなす万能女。ノイリのためだけに私は存在すると言ってはばからない、ノイリ崇拝者である。冗談で誰かが好みのタイプを聞くとノイリと答えたらしい。
「あのなぁ、いくら何でも四六時中べたべたするのはやめろ」
「私は護衛も兼ねています。室内での護衛なら、私以上の適任者などいません」
 まさしくその通りだ。彼女なら瞬時に護衛全員を動けなくしてノイリを連れて逃げ出すことも出来る。僕の場合は室内では使えない威力の大きい魔術が得意だ。応用の利く小技が主体の彼女とは相性が悪い。
「最近、お前達は出てきいるんじゃないかと噂されてるんだよ」
「ニース様と噂のある王子様だけには言われたくありません。男同士よりはいくらかマシです」
「騎士の僕はともかく、聖女のノイリには大きすぎるダメージだ」
「噂なんてくだらない。私たちはそんな汚らしいことしません。男の人って、そういう所が嫌いです。王子様は不潔です」
 普段慇懃無礼なルゼは、不機嫌になって唇を尖らせる。こうも無礼を表に出すのは珍しい。本当に許せないほど不愉快なようである。彼女は自分のことなら何を言われようとも流してしまうが、ノイリに対しては過保護なのだ。
「ちょっと、兄さん。ルゼにそんなこと言ったらかわいそうでしょ。まだ子供なんだから」
「は?」
「そんな心配するなんて、無粋にも程があるわ。じゃれ合うのは可愛いじゃない」
 妹のグランディナは、同い年のノイリよりも、付き人のルゼの方を気に入っている。だからといって、そんな風に見ていたとは思わなかった。
「別に、仲良くするなとは言っていない。少しばかり距離を置いたらどうだと言っているんだ。始終気を張っていたら、ルゼの身が持たないぞ。僕たちだって、侍女達だって交代するんだ。ルゼもたまには休んだ方がいい」
「兄さんにしてはまともなことを……」
 男ならともかく、女がこうも気を張っていたら気になって当然だ。生き甲斐を持つのはいいが、依存の域まで行くのはよくない。
 ノイリだけが世界のルゼは、そんな僕の気持ちなど知らず、さらに不愉快を表に出す。
「距離を置いて悪い虫がついたらどうするんです」
「ノイリにはつかないよ。お前がいなくても監視が多いんだ」
「男なんて一部の例外を除いてみんなケダモノです。できれば全員女性に入れ替えて欲しいぐらいです」
「確かに二人きりにしたら危険は否定できないが、護衛は常に二人以上、専属の侍女もいる。これで手を出す馬鹿はいない」
 ノイリ本人が恋でも始めたのなら不安もあるが、彼女も一番はルゼ、二番はルーフェスなので、今の面子ならば問題なくやっていける。
「私は好きでやってるからいいんです」
「少しは姉離れをしろ!」
「姉だなんて思っていませんよ」
 ルゼの言葉に、彼女を頼れる妹だと思っているノイリが目を見開く。
「ノイリは他に例えるものがないほど特別な人ですから、姉だなどと思っていません」
「お前は……ノイリはお前を妹だと思って可愛がっているんだぞ」
「それはそれで構いません。私にとってノイリが特別なだけです。姉も妹も私には名前も覚えていないぐらいいますし」
 二人はけっこうな規模の孤児院にいたらしい。だとしたら家族などそれほどありがたいものでもないだろう。彼女はその家族に捨てられたのだ。本当の、血のつながった親に。傀儡術師にはそういう身の上の者が多い。
「ルゼちゃん、私もルゼちゃんは特別だよ。ルゼちゃんが一番好き!」
「ノイリ……」
 二人は見つめ合う。
 それが誤解を生むと言っているのに、反省の様子はない。
「兄さん、ほっときなさい。ノイリはどうせ結婚なんて許されないのよ。それに生涯付き添うのも、本人がいいと言えばいいでしょう」
 確かに、そういう存在がいたとして、僕が部外者だったら有りだと思っていただろう。聖女の側付きもまた聖女に近い存在でなければならないのだ。
「兄さん、そんなにルゼが気になるの?」
「そういうわけではないが……」
「今度はロリコンって後ろ指を指されたくなかったら、干渉するのはやめた方がいいわよ。見た目は大人でも、まだ十二歳の女の子なんだから」
 僕はギョッとしてルゼを見た。
 ノイリよりも年上に見える少女は、やはりどう見ても大人びていて、十二歳には見えない。
「ルゼちゃんはもうすぐ十三歳になるんです。ケーキを用意してもらいましょう」
「ノイリ、自分が食べたいだけたけだろう。そんな高カロリーな物は却下」
「……うう。でも、ルゼちゃんはもっと食べて、太った方がいいの」
「私のことなどどうでもいいんです」
 ノイリが寂しそうに肩を落とし、わがまま盛りな年頃のはずの少女は、教師のように堂々としている。
 ルゼがああも痩せている理由は、幼少時からノイリの食事に付き合っていたからだ。太りやすい天族と、痩せやすい体質の人間が同じ物を食べているから、ルゼの方が細くなる。育ち盛りなのにと、不安になる。
 僕は深くため息をついた。
 知れば知るほど、頭の痛くなる主従である。
 近いうちに、ルゼを無理矢理にでも外に連れて行こう。それぞれが別の食事を取ることに慣れさせないと、ルゼの身体がおかしくなる。育ち盛りならなおさらだ。それが出来る位置にいる大人がどうにかしてやらないといけない。


4  ちょっと慣れてきた頃、護衛の皆様とルーフェス


 護衛対象は無邪気に蝶を追い、その付き人は笑いながら転びそうになる主を傀儡術で助ける。
 誰が見ても美女だと断言するだろう『天使』のノイリは見ているだけで幸せになるらしい。
 そして誰がどう見ても子供に見えない付き人は、ノイリに対して過保護すぎて、天使に対する好意以上のものを抱いた男からは鬼のごとく恐れられている。隠れてノイリに話しかけても、彼女はどこからともなくやってくる。たまに他人の身体を操り口を出す。ノイリにはきっと、プライバシーなどないのだろうが、本人が全く気にしていなさそうなので問題ない。
 女同士だからいいものの、あれが男だったらどうやって引き離すか困っていたところだ。女の子同士なので、私は安心して二人を見ていられる。二人ともタイプは違うが、かわいい女の子だ。見ていて楽しい。
「しかし、ルーフェスの所の孤児はみんなああなのか?」
 ニース様の言葉に、私は首を横に振る。彼はあまり子供と話をしそうにないから、比較対象が少ないのだろう。
「あんな子が普通だったら恐いですよ。普通は年上の女の子と一緒に居続けたいためにあそこまでの技術を身につけて、身を削るような生活はしませんよ」
 そういう風に教育されたのではなく、自然にそんな関係になっていったというのだから、あの子供は恐ろしいのだ。あの魔術の腕に、あの性格が、すべてノイリを守るためだけに発揮されている。
 その気迫が、彼女を見た以上に大人びて見せる。
 あんな子は他にいない。
「私はもうすぐで背も追い越されそうなんですよね。昔は小さくて可愛かったのに」
 私が愚痴るように呟いた。私よりもさらに背が低いゼクセンは、その言葉で落ち込む。
「もう少し食べた方がいいって言ってるんだけど、それではノイリに悪いって。さすがに栄養が足りなさすぎるから、牛乳と不味い丸薬飲んでるみたいなんですけど」
 だから背丈は伸びているのだ。胸はまったく成長の兆しがないので、その分背が伸びているといったところだろう。
「まったくもって理解できん。目の前で食べなければいいだけで、当の本人より痩せてまで付き合うなど、馬鹿らしい」
 王子様が呟く。最近、彼はルゼの身体を心配して無理矢理連れ回している。そのせいで、ルゼは女物のドレスを着るようになった。女物を着ると本当に女の子なのだなと安心する。
「殿下も、面倒見がいいですよね。ルゼはいかにも可愛いってタイプでもないのに」
 以前はうちの領土に来ていた騎士がからかうように言う。ルゼはまだ今よりももっと幼かったが、今ほどではないが強かった。騎士達の動きを観察するために、よく訓練場に出入りしていたので、彼にも可愛がってもらっていたらしい。
「目の前で自虐的な事をされると腹が立つだけだ」
「とか言って、ああいうのが好みのタイプなんじゃないですかぁ?」
 茶化すように別の騎士が言うと、王子様はぎょっとして目を見開く。
「子供相手になにを言ってるんだっ」
「子供って言っても、殿下もまだ十代じゃないですか。将来はいい女になるかも知れませんよ」
 周囲が王子様をそそのかし始める。
「そうですね。これから綺麗になっていく子供だから、いつか悪い男に騙されないか心配です。王子様に女装させられてから、けっこう狙われてるんですよ」
 私はそれが心配でならない。ノイリを口説く馬鹿はそうそういないが、ルゼを口説く馬鹿ならこれから出てくるだろう。
「それは僕のせいか?」
「いえいえ、まさか。女の格好をしていた方が、変な噂を立てられにくいと教えてやって下さったのは、とても感謝しています」
 本当にそれは感謝している。男になど負けるかと気負っていた彼女が、少しだけ女らしくなった。それはとても喜ばしい。
「ルーフェスはルゼが好きなのか?」
「私の好みは姫様みたいなタイプですよ。ルゼは倍にしてもないに等しいですからね」
「お前……」
「好きというか、彼女とは気が合うんですよ。気が合うというか、思考方向が一緒というか。似たようなこと考えてるんですよね。私が彼女なら、彼女のようにしていたでしょう。残念ながら私は男なので、やったら大問題ですが」
 本当に残念だ。女だったら仲良し三人組になれただろうに、男だからどうしても部外者である。陰から見守るいい男的ポジションにつけたらいいなという程度の立場だ。
「そうだ。私が女装してあの中に混じるというのはどうでしょう。それが一番理想の形なんですが」
「そこまでしてあれに混じりたいのか」
「けっこうイケると思うんですよ」
「お前は……さすがはゼクセンの親友だな」
 ゼクセンがきょとんと王子様を見る。
「僕はルーフェスみたいな変わり者じゃないですよ」
 ゼクセンにまで変わり者だとか言われてしまった。ちょっとショック。
 悲しいから、妹に色々と報告しておこう。この前すごく美人と評判のメイドさんとお話しして鼻の下伸ばしてましたとか。色々、嘘ではないことを報告しておこう。うん。



 ルゼはノイリがいると、子持ちの動物のように攻撃的です。守る者がいると強くなりますが、いない方がのびのび育ってます。
 そういえば、初本物ルーフェスですね。

こういうのはどうですか

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