もしもハルカさん達の性別が逆なら
ハルト女体化視点
今日から初めて会う従兄と住むことになる。おばさんは女の子に興味のない子だから安全よと言っているが、女としてはかなり不安。ドキドキする。
リビングに通されて、お茶とクッキーを出される。
クッキーは手作りっぽい。おばさんはそういうの好きそうな人だ。
しばらくすると、階段を下りてくる足音が聞こえた。
うう、心臓が爆発しそう。
「んだよ母さん」
スエット姿に寝癖はそのまま、顔も洗わない状態の男の人がリビングに入ってきた。今まで寝ていたのか、いつもこうなのか。今日は平日の昼間だから、夜勤明けとかかもしれない。
「…………誰?」
お兄さんが私を見て呟く。
「ハルカ君の従妹のハルトちゃんよ」
「…………そういえば、いたなぁ」
記憶はあるらしい。私に記憶はない。
しかし、この会話の流れはなんだろう。まるで話が伝わっていないみたいではないか。
「今日から一緒に住むから」
「は? なんで?」
「この子のおばあちゃんが亡くなって天涯孤独なの。この子の両親はもう亡くなっているけど、駆け落ちでね。おじいちゃんは引き取るなど許さんとか言ってるけど、気にしないで」
本当に話が伝わっていなかったらしい。けっこうアバウトな人みたい。
「ああ、だからうちに……。
まあ、クソジジイが何か言ったらどうにかするけど、母さんこっちで暮らすの?」
「ちょっとしたら戻るわよ。あの人、ハルカ君といっしょで私がいないと散らかすんだもの」
私は固まった。もちろんハルカさんも固まった。
二人は顔を見合わせる。
よく見れば、背も高くてけっこう格好いい。ちょっとオタクっぽいと言っていたけど、こういう格好いいオタクなら何の問題もない。
「母さん、このいかにも女子高生な子を、俺と二人きりで住まわせる気か? 正気か?」
「ハルカ君、女の子に興味ないでしょ?」
「誤解を招くようなことを言うな。それだと男に興味があるみたいだろう。万が一のことがあったらどうするんだ。その気はないけど、人間、気が変わらないとは言い切れないだろ」
「ハルカ君にはないわよ。エロ本の一つも隠し持ってから言いなさい。
大丈夫。ちゃんと部屋には鍵を付けるから」
ハルカさんがしゃがみ込んでくせっ毛の頭をがりがりかく。私よりもなんだか悩んでるように見える。確かに真面目そうな人だ。
エロ本の一冊もないって本当だろうか。
「俺はまあいいけど、あんたはそれでいいのか? 悪さとかは誓ってする気はないけど、学校とかうるさくないか?」
厳しい進学校だから、厳しいには厳しい。
「それはたぶん大丈夫です。それで文句を言っても、先生じゃどうしようもないし」
不満を見せたら、じゃあどうすればいいんだと言えばいい。事なかれ主義の学校なんて、預かってくれる親戚さえいれば問題ないんだから、何も言わないと思う。
実際には従兄の家ではなくて、叔母の家だし。
「だったら別にいいけど……って母さん、人にそんなクッキー出すなよ」
ハルカさんは私の前に置かれたクッキーを睨んで持ち上げる。もう食べてしまったが、なにかまずかったのだろうか。確かに焦げてて少し見栄えは悪いけど、そこまで言うほどではない。
「ちょっと失敗したって言っただろ。母さんが食うって言うから綺麗なのだけ先に食ったのに。
棚に菓子あるからあっち出せよな」
え、あれハルカさんの手作り!?
「いいじゃない。ハルカ君はお料理上手よって説明するところだったのに。
これから受験生だから、気を遣ってあげるのよ」
「だったら自分が一年ぐらい戻れよ」
「戻りたいけど、私にも仕事があるのよねぇ。あの人も心配だし」
「っ……はいはい。もう好きにしろよ」
ハルカさんは投げやりに言うと失敗だというクッキーをゴミ箱に捨てて、冷蔵庫を開けた。
「母さん、昼食ったか? 俺、腹減ったからなんか作るけど」
「チャーハンがいいわ。夜はカレーね。やっぱり日本のお米は日本で食べるのが一番よね」
マイペースなおばさんを呆れ半分見た後、ハルカさんはリクエスト通りチャーハンを作り始めた。
わかめスープと、あんかけチャーハン。
美味しかった。
2 男女入れ替えハルズをトキ視点から
ハルカ君がイトコと暮らし始めた。可愛い女の子だけど、ちょっと男の子みたいな名前。でも本当に可愛い子で、あんな子と一つ屋根の下なんて思うと戸惑いそうな物だけど、ハルカ君はまったく意識していない。彼女いない歴、童貞歴が年齢と一緒のハルカ君でも、少しは戸惑えと思うんだけど……。しかもハルトちゃんの方にはちょっと好意が見え隠れ。私だったら毎日ドキドキで理性保てるか不安だわ。
「ハルカさん、お小遣い前借りお願い! この服欲しいの!」
ハルトちゃんはハルカ君に通販カタログを見せておねだりする。買ってと言っても無視されるのは学習済みらしい。私だったら買ってあげている。
「可愛いでしょ? こんなの着たところ見たくない?」
「いや、まったく。服なら大学受かったら買ってやるよ」
「今がいいのぉ。高校最後の一年も可愛くしたいのぉ」
「分かった分かった。そのうち類似品が安く出回るから、それ買ってやる」
ハルカ君、それはデザイナーの息子としてはちょっと聞き捨てならない言葉よ。安物は安物だけあってラインとか汚いのよ。
なんて言っても、ハルカ君は女の子の服なんかに興味ないから、聞いてくれない。そんなこと分かってるから言わないの。
ハルカ君は女の子に誘惑されることはない。女嫌いかと言えばそうでもないのだが、とくに誰かと付き合おうとしたことがない。一匹狼な所があるから、一部の女の子に受けてたけど、人を寄せ付けない態度が、彼女たちを押しとどめた。
「トキさん、ハルカさんが無視するぅ」
「ごめんねぇ。買ってあげたいけど、甘やかすとハルカ君に叱られるの」
ハルカ君は厳しい兄だ。小遣いを超えるような無駄遣いは許さない。まあ、ハルトちゃんは身の丈に合った値段の服から選ばないのが悪いんだけど。
「ハルト、お前、服のために人から寝室とっといて、まだ服が欲しいのか」
「寝室じゃなくて納戸でしょ。二部屋つかって、納戸で寝てるなんて、信じられない!」
ハルカ君は納戸に折りたたみのベッド置いて寝ていたけど、せっかくの収納場所で寝ているから、ハルトちゃんが頑張って片付けたの。
「一人で住んでたんだから、どう生活してようが勝手だろ」
「二人なんだから、勝手じゃないの。おばさんにも頼まれたし。
それに、片付けたらちゃんと二部屋に収まったでしょ」
ハルカ君は現在、パソコン部屋で寝ている。すっきりと配置、収納すれば、立派な寝室兼職場になった。元々それほど狭くはない部屋だから、整理整頓すれば寝る場所ぐらい余裕で確保できる。
「やっぱり女の子がいると違うわね。どうして私がハルカ君の部屋を掃除してたのかしらって、時々疑問だったのよね。ハルカ君、さっさとお嫁さんもらいなさいよ。ハルカ君のスペックなら、出会いさえあればちょろいもんよ!」
背は高いし痩せているし金持ちだし切れ長の目でちらと見られると、ものすごくドキドキすると女の子が言っていたわ。何よりこの家。しかも両親は海外にいるから、たまに帰ってくるのさえ我慢すれば好きに使えてしまう。
「女なんて別に。うるさいし、干渉してくれるし」
ハルカ君、女の子は面倒くさいから付き合いたくないらしい。嫉妬したり、押しつけたり、不味い物作ったり。不味い物はたぶんお隣さんのせいだろうけど。
「私、干渉なんてしてないよ。おばさんに頼まれて掃除はしてるけど」
「あー……まだお前はいいかな。うぜぇのはほんとうぜぇ」
「どんなのがウザかったの? ハルカさんのことだから、話しかけてくる人全員ウザいとか?」
ハルカ君は首をかしげる。
「たとえば……トキ目当てで俺に話しかけてくる奴とか、俺とトキで不気味な妄想する奴とか、トキがらみで多かったな。あとは金持ちだと思い込んで押しかけてくるとか」
「私がハルカ君の女嫌い悪化させたの!? いやーん」
「積極的な興味がないだけで、嫌いなわけじゃない。好みのタイプからはだいたい嫌われるからどうでもいいけどな」
ハルカ君に好みとかがあること自体に驚きだ。親友なのに今まで知らなかった。
「ハルカさん、好みのタイプなんてあるんだ。どんな人が好きなの?」
「…………別にたいそうなもんじゃなくて、常識的なこと。うるさくなくて、押しつけなくて、清楚で、いい母親になりそうなタイプがいい。派手なのは問題外だな」
ハルトちゃん、自分の髪を弄りながら悩む。ハルカ君に、髪痛みすぎ派手過ぎと言われて、少しずつ改善しているところだから、まだ完璧には改善されていない。
どっかに大人しくて干渉しなくてしっかりした女の子いないかしら。暴力とか絶対にない家事をする亭主関白な男。たぶん自発的に外に出ようなんてことは言わないし、言葉や態度では愛を示さないけど、それが平気な子……。
やっぱり、ハルカ君にお嫁さんは、難しいかもしれないわ。
ハルカさんハルト君バージョンより、恋愛っぽくなりそうな気がします。