永遠
少女はそれを見上げた。
ぎらつく緑の瞳をもって、射抜くかのような視線を投げつける。
「最後に何かある?」
「いいや。最後であるのはお前の方だ」
それは笑う。人を嘲笑する。
それは人ではない。人を捨てた存在。
「今なら命だけは助けてやるぞ」
「冗談。命乞いをするの貴方よ。まあ、殺すけど」
決めていた。殺すことだけ夢見て生きていた。呪われたこの身体。呪ったのはこの男。支配下にあるのは自分。支配するのは相手。
「私を殺せばお前も死ぬ」
「本望よ。このまま生きていくぐらいなら、死んだ方がマシ」
意識ばかりが残っている。なのに中途半端に意識がない。
こんな時を終わらせたい。こちらにはその手段がある。彼もそれを知っている。
「この私が、貴方を無へと引きずりこんであげる」
数千年、生きた魔道師。いや、生きていない。その時は凍ったまま。死した肉体は熱も持たず、凍ったまま。
「静寂の光で、共に行きましょう」
手に入れた。二人で行く方法を。
苦労をした。死ぬことを忘れさせられたこの肉体は、どんな苦痛を、どんな絶望をもってしても、彼女に死を与えてはくれなかった。
だからこそこれが望み。これが至福。
転生すら叶わぬ場所へ行こうとも、道連れがいるから大丈夫。
そう。これは望んだ事。
仕方なくでは在るものの、心から望んだ最後。
しかしその前に、どうしても聞かなければならない事があった。
「……一つ聞くわ。どうして私だったの? 他にもいくらでもいたでしょう?」
取り立てて容姿が優れているわけでもない。力があるわけでもない。目の前に立つ男に比べたら、の話だが。何がよかったのか。何が気に食わなかったのか。それすらも分からない。ただ、この男の目に留まった。それだけが彼女の知るすべて。
「知らぬ」
彼は答えた。小馬鹿にするように鼻で笑い。
「そうしたいからそうした」
この男らしい。氷のような冷たい瞳には、何の感情も浮かばない。羨望も、恐怖も、憎悪も、愛も。何もない。
彼女も笑う。それでいい。何かあるよりも、何もない方がいい。
こんなつまらない男ではあるが、何もないよりはマシ。一人で自害するなどつまらない。一人で存在するなど虫唾が走る。
不幸も誰かに押し付ければ、きっと愉快だ。
彼女にはこの道しかない。望み手に入れるには、この道しか残されていない。
だから。
「行きましょう」
最後の一瞬、ほんの少しだけ男は目を細めた。
さあ、共に永遠に在りましょう──
あとがき
またしても恋愛チックなものを書こうとしたら、知恵熱が出てきて暴走した結果、わけの分からないモノが出来上がりました。
ちなみに、この二人は他シリーズで登場予定。お楽しみに。