レクイレム

 

「愛しき人よ、私のもとへ」
 歌が聞こえた。ともすれば、意識を持っていかれそうなほど、魅力的な声。
 ──なるほど。
 これなら、確かに犠牲者の数も納得できた。耳にすれば、逆らえる人間などそう多くない。
「貴方がいってしまった日……」
 ──しかし、なぜこんなことろにローレライの類が?
 考えたところで仕方がない。言えるのはただ一つ。この歌声の主に、かなりの額の賞金がかけられているということ。
 彼は唇を笑みにして、その場へと向かう。
 聞いた話では、湖があり、そこに水妖のメスが住み着いているらしい。その水妖が、何人もの村人を食い殺しているとか。
 ──普通、こんな山奥にいる種族じゃないんだけどね。
 考えても埒は明かない。実物を見れば分かる。その後、どうするか考えればいい。
 そう思い、彼はここに来た。
 遺跡らしきものが見えた。魔力で出来た光がいくつか浮かんでいる。そこに小さな湖があるらしい。
「愛しき人よ、私のもとへ
 帰られることのみ私は願う
 叶わぬ願いなれば、あなたの安らかな眠りを祈る」
 遺跡の折れた柱に座り、その女性は歌っていた。
 虹色に輝く長い髪。虚空を見つめる瞳は、翡翠のような不思議な色。漂う明かりに照らされるその横顔の美しさに、彼はしばし心奪われる。
「……誰?」
 声をかけられ、彼は我に返った。
「……あなた、町の人じゃないわね」
 狂気など感じられない、しっかりとした調子で言う。
「命が惜しければ、帰りなさい」
「貴女はなぜ、町の人たちを殺したんだい?」
 彼女は首をかしげた。
「それを話したら、帰ってくれるの?」
「場合によっては」
 もちろんそんなつもりはない。だが、彼女の話も聞かずに捕らえることなど出来ない。
「あれを」
 彼女は彼女を取り巻いていた光を湖の向こうへとやる。
「……あれは?」
 何か、建物があったらしいが、今は無残に崩壊している。
 おそらく火事だろう。
「焼き討ちにあったの」
「焼き討ち?」
「町で男の人が一人、いなくなったらしいわ」
「それを貴女の仕業だと?」
 彼女は頷いた。
「私は知らない。子供ならともかく、大人の男なんて、よほどお腹がすいていなきゃ食べようとも思わない。硬そうだし不味そうだもの。
 だけど、私は化け物だからって、決め付けられたの」
 彼女はこちらを見た。
 視線が合うと、捕らわれそうになる。
「あそこには誰が住んでいたんですか?」
「私を育ててくれた人と、その息子。
とても大切な人たちだったのに、町の連中は化け物を飼う妖しい魔女だからって。私に人を食わせたのはお前達だろうって……」
──それで、あの歌。
「初めからそのつもりだったのよ。よくいるもの、私の噂を聞きつけて来る人間が。
あの人間達は二人を油を撒き散らした家に押し込めて、火をつけたの。そのとき私は湖の底にいたわ。毒を撒かれて、気を失っていたの。水精のみんなが湖の底に留めてくれなかったら、捕まって、私の方が食われていたのでしょうね。
 力のある水妖の心臓は、寿命を永らえさせるもの」
 彼女は笑う。
 その笑みが、彼女の静かな怒りと悲しみを表しているような気がした。
「私は、奴らを許せない。私の心臓が欲しいからと言って、私の大切な人を奪った。私は、どうしても許せない」
 彼女は震えていた。
「誘い込んだ男たちは?」
「その湖の中よ。今まで水精たちのおかげで澄んでいた湖だけど、毒を撒かれて水精たちが嫌がって別の場所に移ったから、ここの毒は消えていない。決して、消えない。
 私はただ、突き落としただけ」
 それで死ぬのなら、確かに因果応報だ。
「しかし、こんなことを続けていては、いつか本格的な討伐隊が来るよ」
「それが?」
「いいの?」
「こんなことをして、生き残ろうとは思わないわ。その前に、どうしても殺さなきゃいけない男がいるけれど。邪魔をする?」
 するといえば、彼女は迷わず攻撃を仕掛けてくるだろう。
 彼女は強そうだ。
 それは彼の好みではない。
「その男というのは?」
「領主とかいう奴よ」
「領主?」
「そう。不死を望んだ男。私の大切な人たちを奪うきっかけを作った男よ。
今頃きっと怯えているでしょうね。そろそろ、殺してあげなきゃ」
 元来希少の穏やかな水妖に、これほどの決意をさせる人間の薄汚さ。同じ人間であっても、うんざりする。
「貴女の名は?」
「イーシェラよ」
「いい名前だね。僕はローシェル」
 イーシェラはまっすぐローシェルを見た。
 見つめられると身が竦む。らしくもなく、緊張している。
「セウル……私を育ててくれた人間が付けてくれた名よ」
 身内を殺されて、仕返しをするなとは言えない。きっと自分もそうするだろうから。
「イーシェラは、その領主を殺せば気が済む?」
「……その、つもりよ。セウルとヨウルを積極的に殺した奴らは、もう殺したから」
「普通なら、近隣住民全滅させるほど怒ってもいいものなのに?」
「そんなこと……。人間って、本当に恐ろしい事をばかり考えるのね」
 泣きそうな顔をしていた。
 ローシェルは小さくため息をつく。
 可能性は考えていた。
 賞金を引き換える条件は、死体を持っていくこと。普通は首があれば十分だ。にもかかわらず、死体を持っていく必要があるのは、誰かに献上するため。
 彼女は見たところ、かなりの力を持った水妖だ。不老不死とまでは行かずとも、不老に近い寿命程度なら手に入れられるだろう。三百年も生きると、絶望して首を吊る人間が何人もいるというのに。皮肉なものだ。
「分かった。なら、行こうか」
「どこへ?」
「領主の所へ」
 彼女は数度瞬きをした。
 ──あ、可愛い。
 美人はどんな表情も似合う。
「ええと……」
「手伝うよ」
「……賞金稼ぎの人でしょう?」
「別に、お金なんてあれば嬉しいけど、自分の意思を曲げるほどの価値はないから」
 彼女は呆けた顔をして、ローシェルを見下ろした。
「それに、美しい女性が困っていたら、手を貸すのが男というものだよ」
 彼女はしばし沈黙し、呟いた。
「変な人間……」

 イーシェラはその人間を見上げて歩いていた。彼女の手を引いて、暗闇の中を慣れた調子で歩いている。知らない人間と手をつないだのは初めてだ。
「イーシェラはあの湖から離れたことは?」
「山から出たのは今日が初めて」
「そうか」
 彼は笑う。彼は魔道師のようだ。歳は若いと思う。人間の年齢はよく分からないが、十代後半か二十代前半だと思う。ヨウルと同じぐらいの年頃だ。
「もうすぐ領主の屋敷があるから」
「……どうして?」
 彼は振り返り、すぐに目を逸らした。
「どうして私を連れて行くの?」
「先ほど言ったろう?」
「おかしいわ。何を考えているの?」
 彼は首をかしげた。人間は何を考えているのか分からない。人を疑うことは嫌いだが、いい人よりも嫌な人の方が多いのを、彼女は身に染みて実感していたから。
「ひどい目に遭ったんだね。けど、大丈夫だから」
 彼は笑う。ヨウルのような、優しい微笑み。
 分からない。何が本当なのか。
 人は嘘を付く。笑いながらも嘘をつく。ヨウルだって嘘をついた。 知らない男が嘘をついているのかいないのか、そんなこと確かめようもない。
「信じて」
「……人間は嘘つきだもの」
「いいかい。魔道師っていうのはね、嘘をついちゃいけないんだ。魔道師が言霊を裏切ると、精霊たちが力を貸してくれなくなるから」
 彼の周囲には、多くの精霊がいる。彼はとても好かれている。だが、悪い人にもこのような人はいる。精霊の好みは、それぞれ違うから。ただ、強い魔力に惹かれるのだ。
「僕は嘘をつかないよ」
「…………」
「君に敵を討たせてあげるよ」
「……分かった」
 信じる信じないは問題ではない。この人間が、その領主のところに連れて行ってくれるという事だ。
 もしもの時は、どうにでもなる。
 人間とは、脆弱なものだから。
 大切な人も、憎い人も。
 皆、瞬く間に消えて亡くなる脆弱なる存在。
 ──絶対に、消す。
 例え誰が邪魔しようとも。

 彼女は空を見ていた。
「あの子が来る……」
 精霊たちが騒いでいる。見えるほどの力はない。ただ、精霊たちが喜んでいるのだけは理解できた。これほどまでに愛されるのは、彼女が知る限り一人しかいなかった。
「まさか……イーシェ?」
 馴染みの美しい水妖。
「なんてこと……」
 知らせに行かねばならない。しかし窓には頑丈な鉄格子が取り付けられている。部屋の扉は、外から鍵がかかっている。
彼女はこの部屋から出る術を持たない。
 唯一あるとすれば……。
 彼女は机の引き出しを開け、笛を取り出した。
 それを思い切り吹く。
 人の聴力では捕らえられない、高い音が響いているはずだった。その後、紙とペンを取り出し、簡潔な手紙を書く。そうしてしばらく待つと、彼女の飼う犬がやって来た。
「ベス」
 手紙を鉄格子の隙間から投げると、ベスは咥える。
「これをおじさんに。行け」
 それから、彼女は待つ。庭師の老人とは、親しく付き合っている。気分が悪いから、部屋を開けて欲しいと手紙を書いた。
 嘘をついた事になる。それにより、彼が罰を受ける可能性もある。しかし、それよりも大切なことだった。とても大切なヒトだった。
 今は待つ。長いときではないはずなのに、とても長く感じる。しかし、待つしか道は無い。

「……慣れているのね」
 ローシェルはよく分からない方法で、簡単に窓を開けてしまった。
「本当に魔道師?」
「ははは。これぐらい普通だよ」
 人間というのはよく分からない。彼女が知っている人間は、彼女の家族か、心臓を狙っている者達……。
 いや、一人だけ、そうでない人間がいた。しかし彼女は自分を恨んでいるだろう。彼女にとって、自分は疫病神だ。
「……さて、この男だよ」
 ローシェルはイーシェラを部屋に入れてから、ベッドで眠っている男を指差した。小太りの、立派な髭を生やした初老の男性。
「……どうして部屋まで知っているの?」
「みんなが教えてくれるんだ」
 ──精霊たちか……。
 その声を聞くなど、やはり彼は強い魔力を持っている。
「さあて。どうやって殺す? 同じ殺り方をするかい?」
「火は嫌い……」
「そうか……じゃあ、溺死?」
「うん」
「起す? 苦しめたほうがいいよね?」
「どうして?」
「……本当に君は考え方が大人しいね」
 どこが大人しいのだろう? こんなにも恐ろしい事をしているのに。
「さあ、殺してもいいよ」
 イーシェラは頷いた。
 水を生み出し、宙に浮かせた。
 それをゆっくりと男へと近づけた。
「イーシェっダメよ」
 突然呼ばれ、振り返る。窓から、知った女性がこちらを見ていた。長い茶の髪を三つ編みにした人間の少女。
「レミア……」
「それは偽者よ。その男は、父に雇われて貴女をここにおびき寄せたの。入った時点で、気づかれているわ。逃げなさい」
 イーシェラはローシェルを睨んだ。
 やはり人間は嘘つきだ。
「待って」
 ローシェルは彼女の腕を掴んだ。
「放さなければ殺す」
「レミアさん、貴女は自分の父親を殺そうと言う者を、なぜ庇う?」
「あんな男、私が殺してやりたいぐらいよ。私のヨウルを殺すなんてっ」
 一瞬力が抜ける。イーシェラは振りほどき、窓から飛び出た。
「私も連れてって」
 レミアが手を差し出した。
「待てっ」
 知らない男の声に動きを止めた。
 どんっ!
 大きな、聞いたこともない音がした。
 肩に衝撃が走り、尻餅をついた。
「なんてことをっ」
 気がつくと、レミアがイーシェラを抱きかかえていた。
 肩が焼けるように痛い。
「レミアっ! その化け物から離れろっ」
 先ほど寝ていた男とそっくりの人間が、大勢の人間を従えて声を張り上げた。
「嫌よ。あんたなんか、イーシェに殺されればいいのよ」
「お前、実の親に向かって……」
「実の親が、娘の婚約者を殺して、無理矢理子供を下ろさせようとするの!?」
「それはお前の将来を心配して」
「何が将来!? 四十も年上のジジイと政略結婚させようとしているくせに! お前なんか地獄に落ちろ!」
 レミアは怒鳴り散らした。いつも淑やかにしていた彼女しか知らないから、こんなにも激しい思いがあるのに驚いた。彼女がどんな目に遭おうとしていたのかにも。
「腐っているわ」
 イーシェラは肩の痛みを我慢し、力を練る。真下に走る水脈に働きかけ、その水を支配する。レミアの手を退け、立ち上がろうとした。
「イーシェラ。待て」
 ローシェルが力を使い妨害する。
「水の支配で、この私に敵うとでも思っているの?」
「いいや。今動くと危ないから。レミアさんから離れないほうがいい。また撃たれるよ」
 ローシェルは微笑んだ。
 イーシェラはローシェルに力の方向を向けた。
「ローシェル、その化け物を娘から離せっ」
「嫌だな」
「なんだと!?」
「犯罪者に手を貸すつもりはない」
「犯罪者だと!? 逆らう気か!?」
 ローシェルはくつりと笑う。
「この女性を、貴方はどうするつもりだ?」
「もちろん処分する」
「嫌だなぁ、無学な人は。確かに滅多にあることではないけど。上位の妖魔と出くわすなんてことは」
 ローシェルは馬鹿にしたように言うだけ言い、イーシェラを見た。
「ごめんね。本物を引っ張り出すには、一度あそこに入るのが一番だったからね。まさかこんなことになるとは思わなくて……」
「……お前、何を考えて……」
「さっき水脈に働きかけたので分かったよ。君の本当の姿を見せてやりなさい。それで抵抗しなくなるから」
 彼は言う。
 ──信じても、いいのか?
 どちらでもいい。
 あの男は目の前にいるのだから。
 イーシェラは、ローシェルの言う通りに力を解き放った。

「綺麗……」
「本当に。美しいっていうのは、こういうことなんだろうね」
 レミアの呟きに、ローシェルという師若い魔道師が賛同した。
「イーシェは竜だったのね」
「今では本等に珍しい水竜だよ」
 宙を泳ぐように、長い身体をうねらせる。彼女の髪のように、虹色に輝く銀の鱗が、とても神秘的だった。
「保護指定されている特別天然記念物だ」
「え……」
「イーシェラ、一つだけ聞いて欲しい」
 イーシェラは、その翡翠のような瞳がこちらを見る。
「その男は、放置していても処刑される可能性がある」
「なんだとっ!?」
 父が声を上げた。
「当然だよ。水竜を殺そうとしたのだから。
 知っている? 水竜を殺せば、その殺戮の行われた国は水精の怒りを買って水の恵みを失うとすら言われている。それを貴方はしようとした。多くの命を危険にさらしたんだよ。よくて終身刑。最悪極刑だ」
 レミアはローシェルを見上げた。また歳若い、強い精霊の加護を受けた不思議な青年。
 彼女の父は青ざめていた。
「イーシェラ。君が望むなら、この男は法によって裁かれる。もちろん、その手で殺したいのなら止めないし、君にはその権利を認められるだろう。僕はどちらでもいいよ」
 イーシェラは父を睨む。父は小さく悲鳴を上げた。
 人魚のようなものだと思っていたのだろう。しかし、相手は竜だ。イーシェラを殺すことが出来れば、竜殺しの名を得られる。つまり、常人には無理と言うことだ。
「この男を、法で裁いてもらえるの?」
「ああ。そうだよ。未然だから死刑にはならないかもしれないけど」
 イーシェラは地面に降り、元の姿に戻る。
「死刑にならなくても、世間があの男を罪人と認めてくれるならそれでいいわ……。もう、疲れた」
「大丈夫?」
「ええ。レミア、興奮していたけど、お腹の子にさわるようなことはない?」
「平気よ」
「よかった……」
 それだけを言って、彼女は気を失った。
「きっと、傷を治すことを身体が優先させたんだろうね。ほら、銃弾が出てきた。すぐに回復するよ」
 ローシェルは微笑んで、イーシェラの美しい顔を眺めた。
「貴女は本当に父親が処刑されることになってもいいのかい?」
「いいわ。あの男は元々、父親らしいことは何一つしてくれなかった。母さんが病気になっても気にもしなかった。何人も若い女を囲って、母さんが死んだらすぐに後妻を向かえたわ。私の事なんて見向きもしなかった」
 恨みこそあれ、愛情など感じたことはない。今回のことでそれがはっきりとした。
「お願い。あの男を、捕まえて」
「了解」

「私、海へ行くわ」
 イーシェラは言った。
 朝日も見えぬ、空が白み始めた早朝のこと。
「処刑は見なくてもいいの?」
「処刑に決まったわけでもないでしょ? レミアは、幸せになってね」
「……ええ」
 彼女は頷いた。財産ならある。将来の生活は大丈夫だろう。心の問題は子供が生まれれば、多少は癒される。
「ローシェルさん。イーシェをお願いします」
 もちろん言われるまでもない。
「ちょっと、子ども扱いはやめてって言ったでしょ? 私は貴女よりも年上よ?」
「ふふ。もうすぐ元に戻るくせに」
「元に戻る?」
「ほら、朝日が見えてくる」
 イーシェラは、明るくなった東の空を見る。太陽の頭が出てきた。
「いい朝だ…………ねぇ、イー……」
 太陽に気を取られているうちに、隣にいた美女がいなくなっていた。
 周囲を見回す。しかしいない
「こっちよ」
 少し怒気を孕んだ声にうつむけば、
「なぬ?」
 イーシェラだ。間違いなくイーシェラだが、その姿はどう見ても十歳前後の幼い子供だった。
「……ななな、なん……」
「月の光を浴びていると、力が高まって太陽が登るまでは成体の姿になれるのよ」
 くすくすと笑いながらレミアが言う。
 ローシェルは、ふと思い出した。竜というのは種族にもよるが、成体になるまでに二百年はかかると。
「……そ、そんな……」
「何がそんな、よ」
「あ、実は下心があったんですか? 無理ですよ。大人になるまでには私たち死んでますから」
 レミアはくすくすと笑う。
 イーシェラが首をかしげ、ローシェルを見上げた。彼女を見て純真だと思ったのは、子供ならではの雰囲気があったからかもしれない。
 ──ああでもやっぱり可愛い……。
 何もかも、どうでもよくなるぐらい。
「……待つ。待つよ、百年や二百年」
「待つって……。待てるんですか? 魔道師だからですか?」
「魔道師ただから、平気」
「何を待つの?」
「成体になってからね」
 彼女は首をかしげた。
 とりあえず、彼女を海に連れて行ってやろう。清らかな水がないと、弱ってしまうから。ここから一番近い、一番綺麗な海に。
「じゃあ、行こうか」
 理想の恋人探しという旅の目的は、果たせてはいないが、その候補が見つかったのだ。
 良しとしておこう。
「よろしく、イーシェ」
 二人は手をつなぎ、歩き出した。
 太陽のある方角に向かって。

 

 

目次   next

あとがき