8話    理力の塔

 

1

 彼女はただまっすぐに前を向いて歩いていた。
「メディア、どうしたの? 機嫌悪い?」
「おだまりなさい」
 通りがかりの馬鹿に声を掛けられ、彼女はきっぱりと即答する。
「………メディア、どうしたの?」
「お黙りと言ったでしょう?」
「でもぉ」
 メディアはその少年の姿をしたそれを睨み、それでも前に進んだ。
「どこ行くの?」
「カオスのところよ」
「何しに? 今って、授業中でしょ?」
「それがどうしたと言うの? 授業など聞かなくても理解できるわ」
「そうだけどぉ、規則だし」
 彼女はそこでようやく足を止めて振り返った。
「お黙り。規則が何だというの? ぐだぐだ言っていると、そんなもの潰すわよ」
「…………ごめんなさい。よく分かんないけどボクが悪かったです」
 納得してくれたので、彼女は再び歩き出す。
「でも、何しに行くか教えてくれる?」
「うるさいわね。
 あの男が来るのよ」
「あの男?」
「そう」
 彼はしばし考えた様子だが、心当たりを思い出したようで、手を打った。
「ああ」
「来るたび来るたび人に付きまとうあの男が! だから、しばらく隠れているわ」
「その許可貰いに行くつもりなの?」
「くれるはずないでしょ。だから、仕事が入ればいいのよ」
「無理だよ」
 彼、ミンスはきっぱりという。
「君のところの班長、ヴェノム様の大ファンだから。仕事が来ても絶対に断ると思う」
「なんですって!?」
 メディアはこのときほど、班長の性癖を恨んだ時はなかった。

 がんがん。
 ノッカーを叩く音が聞こえ、アミュは玄関へと向かった。
「はーい」
 ドアを開けると、知らない男の人が立っていた。顔に包帯を巻いていて、郵便屋さんの姿をしていた。
「………あの、大丈夫ですか? お怪我してるんですか?」
「………………郵便です」
 と、その人は言って言葉どおり、封筒を差し出した。
「郵便屋さん?」
 こくりと彼は頷いた。
「こんなところにまで届けてくれるんだ……」
「魔道師の渡し橋となるのが、私の使命です」
「すごいんですね。怪我しているのに」
「………あなたは変わったお人だ」
 アミュは首をかしげた。
「これをヴェノムさまにお渡しください」
「はい」
 アミュはそれを受け取る。
「ごきげんよう、おじょうさん。あなたに祝福があることを願わん」
 言って、その郵便屋さんは消えてしまった。
「…………ええと」
 深くは気にしないことにして、封筒を見る。差出人はカオス。差出人の住所は……
「理力の塔!?」
 アミュは驚いてその手紙を落としてしまう。慌てて拾い、師の下へと走った。
 今の時間なら、昼食を作り終わる頃だ。アミュはダイニングに向かって走った。
「おねえさん」
 部屋に入ると、予測どおりハウルが皿を運んでいた。だがヴェノムはいない。
「おねえさんは?」
「ヴェノムなら、もう来るぞ。どした?」
「お手紙がきたの。包帯を巻いたおにいさんが……」
「ああ、あいつか」
「怪我大丈夫なのかな?」
「気にするな。あいつは何年も前からあのスタイルだ」
「ええ? どうして? おじさんみたいに火傷しているの?」
「しらねぇ。あいつは、魔道師専門の郵便屋だ。俺が知ってるのはそれぐらい。
 それよか、見せてみろ」
 アミュはハウルに手紙を渡す。それを見て、彼は封を開ける。
「もうこんな時期か……」
 彼は呟いた。
「時期?」
「毎年、ヴェノムが講師として呼ばれるんだ。緑の賢者は珍しいからな。過去の資料があんまりねぇんだ。っつーか、ヴェノム以来出てないらしい」
 アミュは講壇に立つヴェノムを想像した。その講壇というのも、アミュの中の想像でしかない。彼女は普通の学校すら見たことがないのだ。
「おねえさん、すごぉい」
「ああ、妖怪人間だからな」
 それを言った瞬間、
 かこっ!
「い!?」
 ハウルの後頭部に、黒いハイヒールが当たった。
「誰が妖怪ですか?」
 いつの間にか、そこにヴェノムはいた。水差しを手にして。
「師匠、はい靴」
 その背後から出て来たラァスが、ヴェノムのハイヒールを拾って差し出す。
「ありがとう、ラァス」
 ハウルはラァスを睨む。ラァスは舌を出した。
 ──仲がいいなぁ。
 こんな友達は、彼女にはいない。そんな友達になりたいが、性別が違うからか、二人はアミュを大切にはしてくれるが、対等の友達としてはみてくれない。少しだけ、疎外感を覚える。
「ったく。孫の頭に靴ぶつけるか?
 せっかくカオスのおっさんからの手紙預かってんのに」
「カオスから?」
「いつものやつ」
「ああ、いつもの」
 彼女は水差しを置いて、手紙を受け取った。
「なるほど」
「いやぁ、いつもの料理バトルが楽しみだな」
「………料理バトル?」
 アミュとラァスが同時に問うた。
「いや、ヴェノムが呼ばれるのはエインフェの祭りの時期なんだ」
「何それ」
 再び二人は同時に問うた。
「有名な魔道師の死んだ日を祝う祭りだ」
「祝うの?」
「死んじゃったのに?」
 彼は頷く。
「女神……至高神降臨の儀式が執り行われた日らしい」
「至高神こーりん?」
「え? 呼ぶの? 起きたら世界破滅じゃ……?」
「至高神の欠片だ。それで世間を困らせていた魔物を退治したらしい」
「アイオーンです」
 ヴェノムがフォローを入れる。
「これは正真正銘、凶悪無比な」
「で死んだってことは相打ち?」
「かわいそう……」
 ヴェノムは小さく首を横に振る。
「いいえ。彼女が亡くなったのは、女神降臨の儀式に耐えられなかったからです。聖人とはいえ、魔力不足だったのでしょう。女神降臨の儀式を執り行って生きていたのは、今のところ二人しかいないとされています。その一人は現在もご健在で、塔にいらっしゃいます」
 そんなにすごい聖人様がいるなど、知らなかった。
 ──理力の塔って、本当にすごいんだ。
 前回見た変わった人は、きっと例外だったのだろう。
「一週間ほど泊り込みをします。転移方陣で移動しますが、行き来するのは大変ですので、忘れ物はないように」
「…………って、僕らも行くの?」
「そうです。二人にも、とてもいい勉強になるでしょう。それに一週間ほどかかります。ルートも連れて行きますので。ここに残りたいというなら別ですが」
 アミュとラァスは顔を見合わせた。
 雲の上の存在だと思っていた理力の塔の本部に行ける。
「すごぉい」
「楽しみだね、アミュ」
「うん」
「油断してると、とって食われるぜ」
 そのハウルの言葉に、二人は目を点にした。
 ──とって食われる?
 何に?
「とにかく、飯にしようぜ」
「そうですね」
 呆然とする二人の前で、テーブルのセッティングを始める二人。
「理力の塔って……どんなとこなんだろ……」
 ラァスの呟きは、アミュの心を見事に代弁していた。

 理力の塔。
 そう呼ばれる塔は世界に五つある。
 中央の塔を中心に、東西南北にまるで十字を描くように四つの塔が立っている。
 その中の中央塔にやって来た。
 転移方陣は野外にあり、雰囲気のよい中庭のような場所だった。
「すごいねぇ。ここで暮らしてるの?」
「ここは塔を中心にして、町ができている。塔ってのは、管理者と許可された者しか入る事ができねぇ」
「え? 入れないの?」
 ラァスは馬鹿高い塔を見上げて呟いた。
「ああ、入れない。理由はしらねぇけど」
「あそこで生活してると思ってた」
「考えても見ろ。
 塔の十階以上に住んでいたとする。んで、外に集合とか、その次は三十階に集合とか言われたらどうする? 足が死ぬぜ。転移方陣なんて、そこらにおいとくもんじゃねぇし」
「……………うーん。確かに……」
「んで、塔の周辺には色々な施設がある。一般公開されてる観光用とか、研究施設とか。俺らが行くのは学舎。つまり学校だ」
「どうでもいいけど、ここ観光地なの?」
「ほら、一般人からしてみれば面白くて珍しい都市だし。客が山ほど来るからな。けっこう収入あるらしい」
 どんどん理力の塔のイメージが落ちていく。
 ──支部ならともかく、本部がこれか……。
「もうすぐ祭りだろ? これからどんどん来るぞ。魔道師関係も多いが、一般客も。
 んで、ヴェノムはそいつらにも講義するんだ。植物育てるの下手な魔道師って多いから。かと言って、市販の買うと馬鹿高いしな」
「…………そっか……。だからこんな時期に呼ばれるんだ」
 園芸教室を開きに。
 ──生徒には、まともなこと教えるのかな?
「何をしているのですか? 行きますよ」
 ヴェノムは立ち話をしていた三人を促す。
「ルート。あなたはいつもの場所に」
「はいよぉ」
 一緒に来たルートは、ヴェノムの言葉に頷き、ひょこひょこと歩いていく。歩く姿が何とも言えず可愛いのだ。
 三人はヴェノムについて、塔から一番近い建物へと向かった。どれもこれも要塞風の立派な建物だが、一番立派な建物がそれだった。
「あの建物が理力の塔の総本部」
「へぇ……。なんか幻想的に見せつつもごついよね。なんか物騒なものついてるし」
 大砲のようなものとか。
「万が一のときのためだろ。正面はもっと普通だ。ここは裏口だから」
 なるほど。
 ──関係者専用ってヤツか。
「どきどきするね」
 アミュが可愛らしく言う。
 ヴェノムとハウルに服装や髪形をいじられ、今日は一段と可愛い。
 変な男に目をつけられないように、気をつけねば。
「アミュ、知らない人にはついていくなよ」
「うん。でも、どうして? わたしって、そんなに単純に見える?」
「いや、ここ危ないから」
「危ないの?」
「ヴェノムみたいな魔道師ばっかじゃないんだ。研究のためなら犠牲なんて気にもしない奴もいる。お前は邪眼だから、変なのに目をつけられるかもしれない。邪眼のレポート書きたい、とかいって。最悪のヤツに捕まったら、目えぐられる可能性あるから、気をつけろ。あ、これラァスにも言えることだから。あと、父親のこと知られたら………」
 ラァスは想像する。
「解剖?」
 神様を捕らえられる機会など、滅多にない。
「マジでそれぐらいありえるから。学舎の中でも危ないから。まあ、信用できる奴紹介してやるけど。アミュはそれで一切の問題はないと思う」
「女の子?」
「ああ。お前はほっといても平気だな。
 もしもの時は、殺しても罪にならないから。正当防衛、認めてくれると思うし」
 驚くべき無法地帯である。
 ラァスは段々とアミュの身が心配でたまらなくなってきた。ハウルの言うとおり、ラァスは問題ないだろう。最近は補助魔法に特化してきた。攻撃魔法ははっきり言ってほとんど使えない。いや、教えてもらえないのだ。それとは逆に、アミュは攻撃魔法ばかりを教えられている。火の扱いを知るのが先だと。
「まあ、一人での行動はやめといたほうがいい」
「んだね。みんなで一緒にいよ」
 それが一番。
「おねえさん、どんどん行っちゃうよ」
 おしゃべりしながら歩いていた皆は、いつの間にかヴェノムと離れていた。慌てて小走りでついていく。
 恐い話を聞かされた後では、彼女と離れるのは少し不安だ。
 ──留守番してりゃよかったのかな?
 幽霊城に残りたくはないと思いついてきたが。
 なぜだか、とても嫌な予感がした。

 ヴェノムは小さく息をつく。
 ハウルは慣れたので気にしないが、初めての二人は緊張しているようだった。微笑ましくも、手などつないで。
 ヴェノムはノックをする。
「どうぞ」
 落ち着いた男性の声が返ったきた。
 ヴェノムはドアを開け、部屋の中へと入る。
 落ち着いたインテリアと、膨大な書類の山に囲まれたのは一人の男性。黒髪に黒目。整った顔立ちに、柔和な笑みが浮かべられている。黒のローブがなければ、彼に怪しい点など見当たらないようにすら見える。
「お久しぶり、カオス」
 ヴェノムは当然ながら物怖じせずに彼と向き合った。
「あ、普通……」
「優しそうな人ね……」
「見た目だけ、見た目だけ」
 ハウルはこっそり否定する。
「ハウル君。再会して早々それですか」
「るせぇ、不良賢者」
 ハウルは彼に食って掛かる。
「不良、ですか。落ち着いているつもりなのですがね」
「遠い昔と比較対照すればの話です」
「師匠は手厳しいですね」
 ラァスがハウルの服の袖を引く。彼は無言で頷いた。
「数世紀を生きるババアとジジイだ」
「ハウル」
「ハウル君」
 二人に見つめられ、ハウルは冷や汗をかいた。
 さすがに二人揃うといろいろな迫力がある。
 昔から、この男は苦手だ。何を考えているか分からない。ヴェノムはなんとなく雰囲気で分かるが、彼の場合、本当に腹まで黒いので分からない。分からないと恐いという意味で、彼の恐さは群を抜いている。
「そちらが新しいお弟子さんで?」
「ええ。ラァスとアミュです」
「はじめまして。理力の塔の長、闇の賢者カオスです」
 二人はしばし沈黙し、
「闇だから黒い服?」
「いや、そうなると師匠は緑のドレス着なきゃならなくなるよ」
「そっか」
 子供らしい会話。
 ラァスもアミュと並ぶと、子供らしく見える。雰囲気に合わせているのだろうが。
「可愛らしい子ですね。それに聖眼と邪眼とは……。まったく、どこからそんな拾い物をしてこられるのか……。
 その才能が、ウチの勧誘にもあれば……」
 魔道師の質の向上が、塔の終わる事なき目標である。
 その点から見て、ヴェノムが捨てられた犬猫でも拾ってくる気軽さで連れてくる子供というのは、なぜか理力の塔が求めてやまない「上質」の魔力を持っているのである。
 ヴェノムはそういうめぐり合わせに生まれたのだろう。
「しかし、その邪眼のお嬢さん。師匠の親戚ですか? 似ているような気がしますが」
「妹です」
「大嘘つかないでください」
「義理の妹です」
「どこから拾って来たんですか? コツを一つ二つ伝授していただきたいものです」
 本当に犬猫のような扱いだ。
「自分が探さないから悪いのです。あなたが探せば、先にこの子たちを見つけていたかも知れません。そういうのは、あなたの得意分野でしょう」
「そうしたいのは山々なのですが、これでも忙しい身です。塔長というのも大変でして」
 カオスはくすりと笑う。
 これは本音だろう。
 背後でノックされる音が響く。
「カオス様……あ、ご来客中でしたか」
 理力の塔の特別魔道師の制服を着た青年が、慌てた様子で入ってきた。
「さあ、行きましょう。顔を見せてしまえば、もう用はありません」
「だな」
 今度顔を見せなければならないのは、学舎長だ。
「失礼しました」
「申し訳ありません、ヴェノム様」
「いえ」
 そう言って、ヴェノムは部屋を出た。

 彼女はこっそりとその様子を見ていた。
 その背後に立つミンスは、小さくため息をついた。
「ねえ、ストーカーじゃあるまいし……」
「お黙りなさい!」
「隠れるのはいいけど、まるで好きな子を影から見つめ続けてるようにも見えるよ? いいの?」
「なっ……」
 彼女はあまりのことに絶句する。
「何馬鹿なことを……」
「見えるよね?」
「ああ、見える」
 飼い主に似てしまったのか、少し生意気な口調で言うルート。
「ほら」
「……くっ、なんたる屈辱っ」
「俺のハウルのどこが気に入らないんだよ」
「すべて」
「……」
「ボク、メディアのそういうきっぱりと言うところ好きだけど……」
 何も、弟のような存在の前で言わなくともいいだろうに。
「性別から、あのにやけた顔、性格、すべてよ」
「何がすべてなんだ?」
 突然、曲がり角の向こうからハウルが首を出した。
「なぜ!?」
「いや、お前、あれだけ喚いておいて……。世の中広しと言えども、ああも『お黙り』って台詞が似合うのはお前ぐらいだし」
「くっ」
 動揺のあまり大声を出したことに、彼女は気づいていなかったようである。普段は冷静沈着、冷血とまで言われる彼女なのだが。
「だぁれ?」
 ハウルの背後から、金髪の可愛い女の子が顔を出す。
「これ、メディア。いつも世話になってる」
「付きまとっといて、世話になってるですって?」
「……綺麗な子だね」
 無難な感想だった。
 彼女は母親似で、とても「綺麗」な顔をしている。黒髪も、藍色の瞳も美女と名高い母親譲り。決して可愛いではない。見た目どおり性格がきつく、そして優秀だった。
「あら、増えたの?」
「こっちはラァス。んでこの子はアミュ」
「…………」
 メディアとミンスは沈黙した。
「親戚?」
「俺の従妹」
「へぇ」
「そーなんだ。カオスに何か言われなかった?」
「その前に退散した。でも、ちょうどよかった」
 ハウルは微笑んでアミュとラァスの肩に手を置いた。
「こいつらのこと、頼むな。俺は今回ヴェノムの助手だから」
 メディアの顔が輝いた。いつもクールな彼女が珍しく。
「じゃあ、一緒に授業には出ないのね?」
「嬉しそうだな」
「嬉しいわ。あんたのおかげで、私はどれだけ苦労したか……」
 個人的なことではあるが。
「とくにアミュのことは頼む」
「言われるまでもないわ。あんたはさっさと消えなさい。もう来なくていいわ」
 ハウルはくすくすと笑う。
「おまえって、本当にはっきりと物言うな」
「あなたみたいに腹黒いのとは違うの」
「俺が腹黒い? どこが?」
「十分腹黒いと思うよ、ハウル」
 ラァスとかいう金髪の女の子が言う。
 男名だが、女の子に男名をつけるなど珍しくもない。
「さあ、行きましょう。こんな奴と同じ空気なんて吸いたくないわ」
「ほんと、お前って面白い奴だな。じゃな。ルートも気をつけるんだぞ」
 ハウルはルートの頭を撫でる。
「ルート!?」
 ラァスはルートを見て驚いた。
 今のルートは、人間で言えば、十歳ほどの容姿をしている。白い髪に金の瞳。尖った耳と角。できるだけ自然に人化するために、容姿的なものはなるべく歪めずに人の姿にする。そうすれば、子供の力でも十分に変化し続けられる。
「ボクが人化の術を掛けてあげたんだ。子供とはいえ、人間に比べると身体が大きいからね。ボクなんかだと、入り口に鼻先入れるので精一杯だし」
 女の子二人はルートとミンスを凝視した。
「竜?」
「白竜のミンス。ルートの遠縁に当たる」
「はじめまして。ミンスです。育ち盛りの男の子でーす」
「男!?」
 ──あ、驚いた。
 こうやって人間を驚かせるのが、彼のちょっとした趣味。
「ああ、ラァスの同類だ」
「え、その子男の子なの!?」
 思わぬところでライバル登場。
「……男?」
 メディアがラァスを眺めた。
「……まあいいわ」
「ラァスはいいんだ……」
 男だという理由で嫌われたハウルは、ショックを受けたように言う。内心平気に思っているかもしれないが。
「ミンスで慣れたわ、この手のは。男だと思わなければいいのよ」
 ──ボクの事、男だって思ってなんですか?
 別にどうでもいいが。
「ハウル。行きますよ」
 少し離れたところでヴェノムの声がした。
「ああ、今行く。メディアがいたんだ。ちょうどいいから、二人預けるから」
「そうですか。メディア、二人のことをよろしく頼みます」
 メディアはヴェノムに姿を見せて頭を下げた。
「はい、ヴェノム様」
 メディアは尊敬するに値する人間に対しては、とても素直だ。
 いつも彼女は自分に素直。
 それが美点であり、欠点でもある。
「行きましょう。その格好だと目立つから、着替えを用意してもらわなきゃね」
 二人は頷いてメディアに続く。
「がんばってね」
 ルートが楽しげに手を振った。
 ──この子も、癖のある育ち方したなぁ。
 飼い主が、もう少し母親に似てくれていたら、問題はなかったのだろうが……。
「んじゃ、遊ぼうか」
「うん」
 遊びといっても、世間一般では特訓というが。
 これも彼らにとっては遊びの一環なのだ。

 

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