9話 エインフェ祭
前日
「明日が待ち遠しいな」
突然、ハウルが言った。
エインフェ祭前日の朝。待ちきれないと、やたらと張り切るハウルがベッドの上に立っていた。
「…………なんで?」
毎年来ていれば、普通は飽きるものだ。
「そりゃあ決まってんだろ! 料理コンテストがある」
「…………どこで?」
「ここの調理棟」
ラァスは頭の中で反芻する。自分は今少し、寝ぼけている。そんなようなことを前に言っていたような気がしたが、よりにもよって理力の塔の敷地内だとは、思いも寄らなかった。
「誰が?」
「世界中の料理自慢が」
「なんで?」
「有名だから」
「………どうして、理力の塔で料理なの?」
ラァスはいい加減呆れ半分に問うた。
「昔、カオスのおっさんが冗談半分で開催したらしい。それがなぜか今や全国的な大会に」
「なんでそうなるの!?」
「そんな数世紀前の話を聞かれても……」
「……だよねぇ」
そこまで時がたっていると、本人すら首を傾げる可能性があるのだ。
「そんなに美味しいの?」
「オヤジが食いに来る」
自他ともに認める美食家が。
「僕も試食できる?」
「生徒の試食は争奪戦だからな。でも、ヴェノム審査員だから。可愛く『あーん』とかやれば、くれる」
「…………ハウルって食べ物のことになるとプライド捨てるよね」
「ったりまえだろ! 五つ星レストランの料理長とか来るんだぞ」
ラァスはその場を想像した。
「あ、いいかも………」
「だろ?」
「僕も師匠に甘えちゃお。デザートも出る?」
「おう、デザート部門もあり」
ラァスは大の甘党だ。思わず顔がにやけてしまう。朝っぱらからだらしのない男二人。
少し夢を見るぐらいいいではないか。
この時は、まだ平和だったのだから。
「ふん」
朝食を食べていると、突然やってきたメディアが鼻で笑った。
「いい御身分ねぇ」
ハウルは女子に囲まれていた。特に隣に座るイリーアは、毎日彼に付きまとった。
ラァスはと言えば、ハウルが女子に囲まれたときには姿を消していた。ちなみに、今発見したのだが、ラァスはアミュと会話していた。
──く、自分ばっかり本命と……。
本命がいるわけでもないのに、彼は嫉妬した。
この異様な雰囲気の中で食事をしなくてすむ彼が、恨めしいだけかもしれなかった。
「ああら、メディア。一人でお食事?」
「もう食べたわ。アルスやカオス達と」
メディアとイリーアは睨み合う。
──なんか、この場所めちゃくちゃ居心地悪いんだけど……。
間に挟まれていなければ、面白いとすら思うのだろうが、この場所は心臓に悪すぎる。
「あなたって、本当に食べるしか能がないわよね。毎年食べに来てるだけじゃない」
「何が悪い」
「どうせ、料理の一つも出来ないくせに、人の作るものに文句を言っているのでしょう? 情けないことね」
彼女はいつも的確な指摘を、相手の心臓抉り取るかの調子で言い切る。
しかし、今日は違う。
「料理? できるぜ」
「…………できるの?」
さも意外そうに言う彼女。
「え? ハウル料理できるの?」
「知らなかった……」
ラァスとアミュまでもが驚いた様子だった。
「馬鹿にすんなよ」
「だって、見たことないし」
「俺が得意なのは魚料理。海の魚が一番!」
「釣り、好きだもんね」
「塩焼きは料理なの?」
「だから、ちゃんとした料理だって」
アミュにまで疑わしげな視線を向けられ、ハウルは少し傷ついた。
「本当かしら?」
「マジで」
しかし、誰も信じてはくれそうにもなかった。
イリーアたちは別として。
「ハウルは魚料理だけは出来ますよ」
天の助けは、いつものように彼の祖母だった。
「………魚料理だけ、ね」
彼女は笑う。
「出来ないよりはマシだろ」
「そうね」
言って彼女は去っていく。
毒々しい存在感のある少女が立ち去ると、少女達が騒ぎ始めた。
「ハウル様、お料理まで出来るなんて、素晴らしいです」
「素敵」
「ハウル様は、どんなお料理を?」
ハウルは助けを求めてヴェノムを見た。
「ハウル。食事が終わったらいいですか?」
「ああ。もう終わった」
ハウルは残っていたパンを口に詰め込み、立ち上がる。
やはりヴェノムは、タイミングよくハウルを助けてくれる。本人にその気はなくとも。
彼は顔を顰めた。
「あの馬鹿女……」
連れがいなくなったのに気づいたのは、つい先ほど。田舎育ちの娘だ。物が溢れているこのまちは珍しいのだろう。それでふと気がつくと、露天の商品に釘付けになっていることが何度かあったが……。
「ちっ」
見栄えだけはいい女だ。万が一、変な連中に狙われないとも限らない。
そうなった場合、彼女を見失ったことが露見する可能性がある。そうなれば、小言の一つや二つ言われるのは目に見えていた。
「まったく……」
彼は小さく呪文を唱えた。探査系の術だが、こうも人が多いと役に立つかどうか……。
──だから反対だったのだ。
祭りに来るなど。
とにかく、探さなければならない。しかし、目立つ女だ。少し聞き込みをすればすぐに発見できるだろう。
金髪に金の聖眼。目立たないはずもない。ここが魔道都市と呼ばれていようとも。
ハウルは町を一人で歩いていた。
ヴェノムに頼まれて買い物に来ている。彼女は、この町では有名すぎるので、出歩くのを避けたいらしい。
──ええと、もう全部買ったな?
メモと荷物を見比べて、すべてを買い終えたことを確かめつつ、口に買ったばかりの饅頭を咥えながらぶらぶらと町を歩く。
「んもう! 離してったら!」
聞いたことがあるような声が耳に飛び込んできた。
「あん?」
ちょっとした人だかりを発見し、ハウルはそちらへと向かう。
「君なんて、ぼくのタイプじゃないの!」
人だかりを器用に書き分け、それの見える位置にまで移動した。金髪の女の子の後姿。それが、数人の男に囲まれていた。
「いいから、来い!」
始めはどうだったかは知らないが、男たちは明らかに殺気立っていた。
「ぼくに気安く触るな」
と、少女は足のみで男を転倒させ、こちらを向いた。
「…………」
ハウルは脱力した。
「こんなとこで何やってんだ、お前は」
ハウルは少女に近付いた。
毛色の違うハウルの登場に、場の雰囲気が変わる。
「お前ら、とっとどっか行け。不幸になりたくなければの話だけどな」
ハウルは男たちを睨む。優男風の顔立ちは自覚している。普通に睨めば、一笑されるのが落ちだ。だが、少し力を込めて睨めば、人間の本能的な部分で恐怖する。
「ひっ」
神と対峙したという、絶対的な恐怖。
「行け」
男たちは恥も外聞もなく逃げ出した。
──はぁ、嫌なんだけどな、これ使うの。
しかし、人が多すぎて下手なことは出来ない。これで駆けつけた自警団に捕まっていれば、いい笑いものだ。
ここは独立都市なので、国の派遣する警察はいない。理力の塔の魔道師が自警団を作っている。
「ここも、この時期になるとああいうのが増えんだよなぁ」
少女──にしか見えない少年、ラァスをナンパする気持ちは痛いほどよく分かるが。彼は変装好きだ。今は年よりも上に見える変装をしている。かつらまで被って。
ラァスはハウルの顔を覗き込んだ。
「いま、すごい存在力を感じたけど」
「何馬鹿なこと言って、馬鹿やってんだ」
ハウルはラァスの首根っこを押さえた。
「帰るぞ」
「え、ちょ、君だれ?」
ハウルはとぼけるラァスを見下ろし、そのこみかめに拳を当てた。
「お前授業サボってこんなとこで遊んでて、何とぼけたこというかなぁぁぁ」
ぐりぐりぐり。
「いたいたいた。って、やめいっ」
ラァスは腕の中でもがく。いつもなら、この時点でとっくに腕から抜け出して睨んでくるのだが……。
「君、勘違いしてるよ!」
「勘違い?」
「人違い」
「はぁ?」
ハウルはラァスの顔をよく見る。
男だか女だかよく分からない顔に、猫のような小生意気さを感じる金の瞳。いつもと少し違うが、ラァスならお手の物だろう。
「この世の中にこの顔と金の聖眼の人間が二人もいるはずねぇだろ!」
「知らないよっ!」
「こんなかつらまで持ってきたのか。まったく……………ん?」
かつらを取ろうとひっばるが、とれない。つけ毛でもない。
「いたいって!」
頭を触り、しかし、かつららしいところはない。
「ずいぶんとよく出来たカツラ……」
「地毛だぁぁぁあ!」
ハウルは彼を解放し、眺める。
ご丁寧に、胸にパットまで入れて……。
「……………」
女?
「まあ、とにかく帰るぞ」
「人の話を聞けぇぇぇえ」
それは無視して、彼女を引きずって帰る。抵抗は無視。
ラァスには、生き別れた姉がいたはずだと思い出したから。
互いが互いを見て絶句した。
「誰?」
同時に。
ここはカオスの私室。皆がここにいると聞いて、やってきた。
「僕はラァス」
「ぼくはゲイル」
男女という差はあるが、彼らは双子のようによく似ていた。ゲイルの方が、少し背が高い。
「どこで拾ったの?」
「買い物の途中。いや、お前って姉がいたろ?」
「この人、違うよ。姉さん父親似のところあるもん」
「ぼく、一人っ子」
「え、違うのか!?」
てっきり姉弟の感動の再会だと思っていたハウルは、絶句した。
「師匠。なんかこの二人……」
「言ってはいけません。死にたいのですか?」
「そうですね。万が一離婚なんてことになったら、確実に殺されますね」
「ここは見ない振りが肝心です」
「…………何の話だ?」
耳のいいハウルは、ヴェノムとカオスの会話がしっかりと聞こえた。
「いえ、べつに」
「そうです。気にしてはいけません」
明らかに動揺する二人に、ラァスとゲイルが似たような、少し据わった目を向けた。
「どういうことかな?」
「知ってるなら教えてよ」
「気にしてはいけません」
「そうです。証拠隠滅に殺される可能性だってありますよ」
一体何のことだと思ったが、二人を見ていてあることを思った。
一人なら偶然ですむだろう。しかし、二人揃うと赤の他人とは思えなかった。
「そういや、ラァスってクリス伯父さんになんとなく似……んぐっ」
突然背後からヴェノムに口をふさがれた。
「クリス伯父さんって、地神様のこと?」
「気のせいです」
ヴェノムは即座に返すが、言葉の選択肢が間違っている。
「証拠隠滅って、ことは、浮気ってのが妥当だね」
「君いくつ?」
「ぼくは十四歳」
「僕が十三だから、けっこう近い間だね」
「男の人って、奥さんが妊娠してる間によく浮気をするって聞いたけど」
「ああ、それなら短期間に複数の浮気もあるね」
どんどん勝手な推理を進める二人。考え方も似ているようであった。
「そんな……伯父さんのこと信じてたのに……」
「だから、違います」
そのときだ。
「何がちがうんですかぁ?」
突然何もない場所から、本当の意味で出現したのは、ウェイゼルだった。
そろそろ出現する頃だろうとは思っていたが、なんて最悪のタイミング。
「おや、まあ」
わざとらしく驚いた振りをする。
「兄さんの隠し子発見」
思い切り聞いていたのだろう。二人の勝手な予測そのままのことを、
「レイアちゃんに報告せねば」
伯母に報告に行くだろう。
「ウェイゼル様っ」
さすがに慌ててヴェノムが止める。彼女が抱きついて引き止めると、ウェイゼルは満足そうに微笑んだ。
「何ですか?」
過剰にヴェノムの身体に触れながら。
「どうするつもりですか?」
「他人の不幸ほど面白いものはありません」
「では、いいのですね?」
「何が?」
ヴェノムが彼の耳元で何かを囁く。
ウェイゼルの顔が引きつる。
「そ、それをどこで……」
「さあ」
なにやら弱みを握っているようだ。浮気をされても家庭崩壊はしていないこの夫婦が、離婚の危機に晒されるほどの、何か。
「はぁ。面白そうなのに……」
「ヴェノム。俺もそのネタ知りたい」
「ハウルにはまだ早いです。大人になって、覚えていたら」
「大人って、都合のいいときだけ子供を子ども扱いするよな……」
余計なことを言う息子に、父親は忌々しげに睨む。
「まったく……うちの子に何かあったらどうするのですか」
「いくらなんでも消されはしませんよ。たぶん」
「たぶん?」
「僕じゃあないんですから」
良識もある、子供が好きな伯父。よくは知らないが、人を平気で殺す人ではないだろう。アイオーンにすら慈悲をかけて、殺さないでいたのだから。無責任だが。
「よかったわね。愛人の子だったら消されていたそうよ」
「だな」
「まったく。男っていうのはこれだから嫌いなのよ。こんな父親なら、いないほうがマシね」
「同感。でも、どうしたんだ? 珍しく俺を批判しないけど」
「私はああいう男が一番嫌いなの」
「……………まさか、俺のことこうも嫌ってるの、あれのせいじゃ……」
「それは関係ないわ。子に親の責任はないもの」
そのあたりは、彼女らしいのだが。
ハウルは再びウェイゼルへと視線を向けた。
「二人とも、おいで」
ウェイゼルは顔を見合わせるラァスとゲイルを手招きした。
「少し見るだけだから」
しぶしぶと、二人はウェイゼルの前へと進み出る。ウェイゼルはその顔を撫でた。
「おそらく兄さんの子ではないですね」
「…………そうなのですか?」
「まあ、見事な聖眼ですから、関りはあるでしょうが。君たちのご両親は?」
「父親は知らないけど、母さんは死んだよ」
「ぼくも同じ」
ウェイゼルは再び考え込む。自信をなくしたのだろう。
「あ、でも父親はいたから」
「ぼくも」
「君たちはどちらの親に似ているの?」
彼らは首を傾げる。
「どっちにも似ていないと思うよ。母さんのことはあんまり覚えてないけど」
「ぼくも似ていないよ。母さんは美人だったと思うけど」
「親戚は?」
二人は考え、
「会ったことないからなぁ。母さんに母親と双子の妹がいたとかいないとか」
「ぼくの母さんも双子の姉がいたって」
線で繋がった。
「君たちは親戚。兄さんとは関係なし」
「ええぇ? せっかくアミュの仲間だと思ったのにぃ」
「せっかく面白そうだったのにぃ」
まるで双子のように似た二人。
──さすがに二人もいると、口で勝てないかも……。
特に女の子は。
などと思ってしまう。
「よくて先祖がえりでしょうか」
「二人も同時にか?」
「双子というのは、似たような運命を辿る場合があります」
四つ子と言っても過言ではない四神は、似ても似つかない運命をのんびり歩いていたり、突き進んでいたり、回り道をしていたりするのだが………。
「まあ、いいじゃないですか、そんなこと。主に聖眼なだけで、害はないんですから。元々聖眼というのは、神や高位の精霊の血を引いたものが先祖がえりした場合に現れるものなのですから。邪眼は例外ですが」
二人は顔を見合わせる。
「それに、好んで兄に似た姿をとる者もいますから」
ウェイゼルは二人の頭を撫でた。
「それならいいのですが……」
ヴェノムは安心したようだった。
「よかったなぁ、お前ら」
「期待した分損した」
「そうそう。自慢できると思ったのに」
「お前ら…………生きた親戚見つかったのに」
感動はないのだろう?
「ええ? 血の繋がりなんて意味ないじゃん?」
「そそ。大切なのは、好きか嫌いかよ。初対面の人間相手に、何を思えと?」
「んまあ、可愛いけど」
「君も本当に可愛いな。これなら間違えても仕方がないね」
ナルシストが二人。
お互いに見詰め合って、称え合う。どうせ自分の方が可愛いとぐらい思っているのだ。
こんこん。
ノックされる音。
「はい?」
「カオス様。客人です」
なぜか、声の調子が上ずっていた。
「入りなさい」
カオスは気もせずそう言った。
カオスの秘書が、部屋へと入る。その背後に、少年がいた。独特な輝きを持つ銀の髪に、緑の瞳。高位の水妖のような姿をしているが、その目は好戦的だった。高圧的な態度で、一同を見回す。
「あ、ハディス」
ゲイルがひょこひょこと彼の前に進み出た。
「よくここが分かったね」
「銀髪の男と痴話喧嘩」
「は?」
「可愛いカップル」
「え? 何が?」
「腕まで組んで歩いていた」
少年、ハディスの目がこちらを向いた。
「いい度胸だ」
何か、勘違いをしている。
しかも、殺意すら感じた。
「何物騒な目つきしてんのさ」
「貴様は、知らない男にのこのことついていく………」
ハディスの言葉が止まった。その視線は、ラァスに向けられた。
「あの子と間違えられちゃっただけだよ」
「…………生き別れの妹がいたとは知らなかったぞ」
「従妹なんだって」
「…………ふぅん」
彼はしばらくラァスを見て。
「まあいい。帰るぞ」
「うん。じゃねぇ」
ゲイルは手を振って、ハディスの腕にしがみ付くようにして部屋を出て行った。
「…………なんか、勘違いしたまま去っていかなかったか?」
ラァスが、女だと信じて疑わない様子で。
「結局、身元聞かなかったけどよかったの?」
メディアは一人冷静に呟いた。
その言葉に、慌てて追いかけたが、二人の姿はなかった。
ベッドの中、ラァスは天井を見ていた。
「結局、なんだったんだろうね」
「さぁな」
ハウルは小さくあくびをした。
「ゲイルちゃん、また会えるかな?」
「縁があったらな」
ハウルはくつりと笑う。
「ようやく身内が恋しくなったか?」
「別に。ただ……」
「ん?」
「女の子だった自分を見ているみたいで、なんかいい……」
ハウルはうつぶせになって読んでいた本の上に突っ伏した。
「…………あ、あのな……この、ナルシスト!」
彼はがばっと起き上がる。
「僕の可愛さは世界共通!」
「前から言おうと思ってたけど、男が可愛くてどーすんだよ!?」
「いいじゃん! 将来は絶対に背も高くなって、アルスさんみたいなハンサムになるんだから!」
目指すなら、彼女のようなハンサムだ。男性に見えても女性的な部分もある。そんな将来は理想だった。
「……お前、本っ気で自信家だな」
「容姿に関しては、絶対の自信を持ってるの。今まで磨きをかけてきたんだもん!
ハウルもやってみなよ。金持ちたぶらかして高いもの買わせるのって、気持ちいいよ」
「だ・れ・が・やるか!」
「変なところでかたいよねぇ」
「お前は美人局(つつもたせ)にでもなる気か?」
「意味、分かって使ってる?」
あれは一人でする詐欺ではない。
「うーん。実際のところ、よく知らないかも……」
「ほぉら。なんとなくのイメージで物を言わない」
彼はこくりと頷いた。
勝った。
「でも、お前がアミュよりも可愛くなってどーすんだ?」
「ほら、アミュって頼みを断れないし」
「お前……前に言ってたことと言ってること違う気が……」
「それにアミュは美人さんになるしぃ。系統が違うの。将来は師匠みたいな美人さんなんだよ」
「……まあ、確かに系統は違うな」
ラァスは小さく笑う。
好きになった相手がどのように変わるか。そして自分がどのように変えられるか。それが今から楽しみだった。
「それに、ハウルのことも好きだよ」
「……………と、突然なんでぇ」
彼は照れた様子でそっぽを向く。
「唇も頂いたしね」
「喧嘩売ってんのか?」
「さあ、寝よ。明日はたべるぞぉ、おー」
青筋を立てるハウルを無視して、ラァスは魔道の明かりをかき消した。
楽しいことがありますように。