3話 幸運のある森で


 ハウルは枝に腰掛け、隣で双眼鏡をのぞくアヴェンダを横目で見る。
 音をある程度は遮断できると言ったとたん、彼女は彼を連れて巡回に出た。ハウルはラァス曰く「まぶしいほどよく光る」という、目立つ銀の髪を無理矢理縛り、帽子の中に隠した。なんとなく、流砂を思い出す。彼の場合は、もっとだっぽりとした帽子の中に髪を収めている。あれか彼に似合って可愛いが、自分のこれは正直なところ、少し変だ。外に出てしまう分は染め粉代わりに草の汁を塗り目立たなくする。臭いが、しないと文句を言われるので渋々言われるがままにそれをした。帰ったら思い切り頭を洗いたいものだ。
 ──ルートにゃ見せられないよな。
 城に置いてきた弟のような存在を思い──ふと最悪の場合彼を召喚すればいいのではないかと思いついた。魔力を消費させてしまうが、いつもよりもサイズを大きくして人間の前に出せば効果はあるだろう。
 もちろん、最悪の場合の話だ。
「ぼーっとしてんじゃないよ」
 アヴェンダがハウルを睨み上げる。身長差があるので見下ろす形になってしまい、彼女の胸元が目に入ってきた。ハウルは妙な緊張感を覚え、視線をやや上の方に持っていく。最近一緒にいたのは、つるぺたの暴力呪術師と、夏の暑さもなんのそのといつも肌を出さない服を着ていたいとこと、万年黒服長袖無表情女である。こういうある意味普通の女の子らしい女性と接するのは久々だ。
「わってるよ。その点ぬかりはねぇ」
 どぎまぎしながらも、彼は顔に出さずに言い終えた。
「ならいいけど。人の姿を見られたら終わりだってことは分かってる? 子供ならともかく、あんたみたいな大きいのが見つかったら、人間の仕業だってばれるかもしれないよ」
「まあまかせとけ。そういうのは得意だ」
 ハウルは高台代わりの高い木の上で胸を張って豪語する。幼い頃からあの深淵の森で遊んでいたのだ。魔物にちょっかい出して遊んでいたのだから、普通でない人間を除き、人間から隠れるなど造作もない。
「ところでお前ら、これからどうする気だ?」
 ハウルは再び監視をするアヴェンダに問う。
「あの馬鹿に代替わりしてから、国と交渉してたのよ。でも人の良かった王が突然暗殺されて、こっちも代替わりしたでしょ。長男が死んで、次男は家出してるから、三男がついだんだけど」
 家出している次男がさっきの子連れですと言ったら、彼女はどんな顔をするだろう。
「そいつがサイテーなんだよ。生き物をオモチャにするのが好きで、最近頻繁に来るのもそいつの命令じゃないかって言われてるのよ。前の王は話が分かる人だったのに、今の王は最悪。税も上がるみたいだし、徴兵もされる。その上変な実験をしてるらしい。不死を欲しているとも聞く。不死を望む王は国を壊すってのにさ。
 ほんと、あの子達を一体どうするつもりなのか……」
 彼女は地上を見下ろし厚めの唇を噛む。双眼鏡の横から見える目は、わずかに潤んでいる。やがて目尻に涙がたまるが、しかし彼女は平気な振りをしている。
「このまま何もせずにほっといたら、あの子達殺されちまうよ」
 涙をこらえる彼女を見ていると、ハウルは落ち着かずに足をぶらつかせた。
 ──こういうの弱いんだよなぁ。
 このように泣かれるのは、ヒルトアリスが泣くよりももっと苦手だ。あれはなんとなく泣いているだけだが、こちらは滅多に泣く事がないだろう少女が泣いているのだ。
「わかった」
「何がわかったんだい」
 彼女は双眼鏡から目を離しハウルを睨む。
「俺がなんとかするから」
「何がなんとかだよ。あんたになにができるって言うんだい」
「できるから」
「何をどう?」
「何をどうしてでも。たかが地方領主なんて問題にならねぇよ」
 女子供を泣かせるような奴は、一度痛い思いをすべきである。
 ハウルはちらとアヴェンダを見ると、彼女の瞳から涙は消えていてほっと胸をなでおろす。彼女は再び双眼鏡を覗き込んだ。
 ハウルは小さく息をつき、真剣に辺りを見渡す。
 村の方に馬車が走っているのが見えた。
「おい、この村馬車なんてよく来るのか?」
「来ないよ。それがどうしたの」
「いや、馬車が村を……こっちに来てるな」
「あんたはどういう目をしてるんだい!?」
「俺は目がいいんだよ。いいのか、来るんなら対策打たないとダメだろ」
「あんたはどうするつもり?」
「まあ、色々と」
 ハウルは木の枝の上で立ち上がり、アヴェンダの手を取り、横抱きにする。
「ちょ」
 ハウルは耳を貸さずに、木の枝の上から飛び降りる。一等高いその木は、常人なら目を回すほど高く、アヴェンダは一瞬小さく息を飲む。しかし落ちる速度が比較的ゆったりとしていたため、大きな目を見開いたまま下を見てハウルに抱きついた。
「このまま行くか。速いぜ」
「い……いい」
 高いところでは平然としているくせに、地に足がつかないのは不安らしい。慣れていないと皆そうだ。ラァスは最後まで怯えていたが、あれは例外である。
「大丈夫。すぐだ。こっちの方が速い」
「ちょっと!」
 ハウルは彼女の非難は無視して空を行く。ものの数分でたどり着いた。


 機嫌のいいハウルと、やや不機嫌なアヴェンダ。見回りに行っていた間に、何かあったのだろうか。
 思いながらもカロンはラフィニアを歩かせて遊んでいた。
「カロン、ちょっといいか?」
「なんだい?」
「ちょっと来い……」
 カロンはラフィニアをヒルトアリスに預け、ハウルと共に小屋を出た。アヴェンダが何か言っていたが、ハウルは気にもしない。
 少し離れた場所に来ると、ハウルは人目がない事を確認する。
「で、何の話かな?」
「ここの領主、お前のキレた方の弟とつながりがあるみたいだぞ」
 キレた弟。唯一まともだった兄を殺してくれた、賢者になることができたカロンを目の敵にする三男。
「っ……帰ろうかな」
「無責任な事言うんじゃねぇ」
「もしもウィトランが来たらどうする!?」
「来ない来ない」
「あの男は無類の子供好きだぞ。ヴェノム殿と同じぐらい。こんなにわらわらといたら喜んで来るに違いない」
「大丈夫だってそんときゃ好きなだけ隠れろ。だいたい、その前に決着つけりゃいいだろ」
「そうだが」
 では、早急に決着をつけるべきである。事故死に見せかけて殺すか。狼に食い殺されるというのは、なかなか陳腐でいいかもしれない。
「お前、今変な事考えてるだろう」
「いや、狼をけしかければと思っただけだが」
「あぁ……それもいいかもな。大切なのは今を凌ぐ事だし。あとからなら、札束で顔叩いて土地買い取る事もできるし」
「実家が金持ちだと言う事が違うな」
 だが、ヴェノムがしてきたのはそういうことだ。そうして、保護しなければ絶滅していた種は多いだろう。彼女の背後には理力の塔もある。全世界に影響力のある理力の塔だ。国といえども喧嘩は売らない。国も彼らの技術や力を利用しているから。
 ──あのバカにその考えがあればだが。
 基本的に好きな事以外はどうでもいいという弟だ。
「事の発端はお前の弟なんだから、きっちり協力しろ」
「弟とは縁を切ったのだが……まあ妖精を守る事に関しては協力は惜しまないよ」
 それとこれとは話が別だ。賢者としても生態系の破壊は阻止せねばならない。
「いっそ、ミンス君を呼ぶのはどうだろう。かれなら呼べば来てくれるだろうし、メディアちゃんもこういうことは許せないタイプだろう」
「それならルートで間に合うだろ。力を貸してやれば成体のふりぐらいできる」
「それはそうだね。殺すか脅して帰すか、その路線でとりあえず乗りき……」
 ハウルがカロンから視線を背け、小屋の方を伺う。カロンもそれに習うと、突然ヒルトアリスが小屋から外に飛び出た。足場を使わず隣の木に飛び移り、カロンにはよく分からないうちに地上に降り立つ。同時に剣を抜き放つ。
「どうした?」
「お前はかくれとけ。顔知られてるかも知れないだろ。そうなったら、ここが攻撃されかねねぇよ」
 カロンは慌てて身を引き、何かないかと自身を見回す。マントは小屋に置いてきた。帽子をかぶっているが、それだけだ。モノクルは目立つし、かといってこれがないとよけいにカロンの身元が分かりやすくなる。
「ふあんならこれでもかぶってろ」
 ハウルはひょいと黒いものを投げた。それはヴェノムのマスクのように見えた。
「それは大きめだし調節きくからお前でも大丈夫だろ」
 カロンはそれを顔に当て、頭の後ろで紐を結ぶ。鏡を見ると、ヴェノムのものにしては何の飾り気もなく、しかも穴が空いている。彼女のマスクは穴が空いていないものだと思っていたので、少し意外だった。
「むかし俺が不便だろうと穴開けて叱られた、嫌な思い出のマスクだ」
「可愛かったのだね、昔は」
 その微笑ましい様子が目に浮かぶ。
「今ふと影の中に入れっぱなしにしたの思い出してさ。いいかげん掃除しないとダメだな」
 何もかも入れているのだろうか。普通の人間にはある程度の容量があって、必要のない物は出すというのが普通だ。この技術もかなり高等なもので、理力の塔の中でもある程度のレベルでないと使えないし、その許容量は己の能力によって変わる。人間ではない彼の容量は、人の何倍あることか。
「時々、君がうらやましいよ」
「何言ってンだ……あ、誰か来た」
 ハウルはしばらく様子を見るらしく、さっと隠れる。見つからなければ問題ないし、相手もいかにも良家のお嬢様風のヒルトアリス相手では、油断するだろう。彼女が泣けば、ひょっとしたら帰ってくれるかも知れない。美女とはそういう点で得なのだ。
 と思った瞬間、ヒルトアリスはやってきた者達に密柄突撃した。
 相手は年若い少年が二人だった。ハウル達と変わらないほどだ。そんな少年達に、ヒルトアリスは問答無用で斬りかかる。二人は即座に反応し、互いに左右に別れた。
 ヒルトアリスは即座に判断し、年長の少年に斬りかかる。少年も剣を抜きそれに応戦する。いつも磨いている剣で、ヒルトアリスは少年の腕を狙って薙ぎ、少年の方はそれを受け止め力で押し返す。ヒルトアリスはその力を利用し、円を描くようにして右足を軸に素早く回転し、たんっと左足を地に着いた瞬間、腹を薙がんと斬りつけた。しかし少年はその一撃を手っ甲で上に払う。そんな紙一重の攻防が続く。
「何者だろうか」
「助けたいけどついてけねぇ」
 ハウルが動くのをためらうほど、二人の攻防はきわどい。少年の片割れも手を出しあぐねて黙って眺めている。黒髪の可愛い印象の少年だ。女性的な顔立ちだが、ラァスほどではない。町中で見れば、可愛い男の子だとそれだけを思うようなタイプだった。
「待て、女」
 ヒルトアリスと剣を合わせる少年が言う。
「何を待てと」
「敵意はない。話を聞け」
「それだけの殺意を持って、何が敵意はないというのです」
「不可抗力だ。それは死の精霊の気配で殺気ではない」
 その言葉を聞き、カロンとハウルは慌ててヒルトアリスの元へと駆け寄る。
「死の精霊憑きがなぜこんなところに!」
 カロンは彼女を後ろから抱き寄せ、ハウルは後ろ手でかばう。ハウルは平気でも、精霊の影響を受けやすい彼女にとっては、命取りとなる。
「お兄様、どうしたのですか」
「死の精霊。文字通り死を与える精霊だ。ごく稀に人に取り憑き、人にその力を与える。本人の意志により殺されるから、本人すらコントロールできない力だ。防ぐ方法も知らない君にとっては、とても危ない」
 彼女は理解していない。だが、相手の少年はほっと胸をなで下ろしていた。彼も本意ではなかったようだ。
「すまねぇな。こいつは敏感でよ」
「いや、この森に入ってから油断していた俺が悪い。ところで、お前達は何をしている。ここは私有地だと聞いたが」
 ハウルは一瞬の間をおいて、しかしすぐに話し出す。
「近所のガキどもとかくれんぼしてるんだよ。わりぃか。別に立ち入り禁止の看板はねぇぞ」
「危険な森だと聞いていたのだが」
「悪意がある奴にとっては、危険だな」
 少年は沈黙する。
「兄さん、やっぱり話が違うよ」
 黙ってみていた小さい方の少年が言う。兄弟らしい。
「普通の子供がいて安全な場所なら、僕らは呼ばれないよ。そのひとはともかく、他の子はみんな普通っぽいから」
 彼はちらと頭上を見た。小屋から子供達が顔を覗かせている。彼にはそれが見えているようだ。二人とも魔力が高いようだ。
「君たちは何者だ?」
「僕らは傭兵ギルドの者だよ。害は加えないから安心して」
 弟の方がマントにつけたバッジを見せる。言われてみれば傭兵ギルドを司る竜の紋章だ。
「傭兵ギルドで、精霊憑きの君がこんなに大きくなるまで生き残ったのか? あの組織にそれほどの魔道師がいるなどとは聞いていないのだが」
「知り合いに魔道師がいて…………」
 兄は言葉を切ったかと思うと、突然にハウルの顔を両手でがしりとつかむ。ハウルよりも少し低い程度の長身の彼は、目の前に固定したハウルの顔をまじまじと見つめた。
「あ……」
 弟がハウルの顔を覗き込み、驚いたように声を出す。
「あんた達、何やってんの」
「いやそれがよくわから……」
 ハウルの言葉を遮るように、弟がハウルの帽子を奪い取る。中に隠していた銀の髪がさらさらと流れ落ちる。無理矢理結んでいた紐も帽子と一緒に取れてしまったようだ。
「ローシェルさん……?」
 小さなつぶやきに、ハウルはやや癖のついた髪を気にしながら言う。
「兄貴を知ってるのか?」
「ローシェルの弟か……。似てるはずだ」
「ローシェルさんの髪よりもキラキラしてる」
「あいつみたいな偽善者じみた顔はしていないな。若い分まだすれてないのか?」
 ハウルは何かに傷ついたらしく、頭を抱えて後退する。
「目の錯覚だ」
「ハウル君、ひょっとして髪の事を気にしてたのかい?」
「う、うるさい」
 彼は兄よりも父親似のようだ。兄と言っても、母親はヴェノムだろう。
 いじける彼は可愛らしいく、和やかな笑いを誘う。
「お前ら、兄貴の何なんだよ」
「ローシェルさんには色々とお世話になってるんだ」
「そいや、理力の塔じゃなくて傭兵ギルドに身を置いてるって言ってたな」
 それは意外だった。母親が理力の塔びいきで、息子はそれと対立するような組織に与するとは、なかなか面白い人物だ。ハウルとは色々な意味で違うらしい。
「しかしなぜローシェルの弟がこんなところに」
「この村に兄貴の母親の弟子がいるんだよ。上のあいつらはその村のガキども。んで、この森は遊び場」
 その言葉に二人は顔を見合わせた。
「で、お前らはここに何しに来たんだ?」
「危険な森に住む妖精の生態調査をしたいから、協力して欲しいと」
「子供とか魔力の強い人間には好奇心で寄ってくるから、若い魔力の強い者って条件だったから、僕らが来たんだ」
 言われてみれば、出て来るなと言われているはずの妖精達が、時折顔を覗かせている。彼らはとても好奇心が強い。ラフィニアに劣らないほどの好奇心と言えば、どれほどのものかわかるだろう。子供並みという事だ。
「こら、隠れてなさいっ」
 アヴェンダが必死で説得するが、やはり四方八方から視線が集まってくる。ここまで揃えば、気にならない方がおかしいだろう。
「あれは何だ」
 兄の疑問に、おそらくこの中で一番彼らについて詳しいだろうカロンが答えた。
「ただの珍しい妖精だよ。世界に千匹しかいない少数種族だ。しかも生態は極秘扱いで資料は世界でもごくわずかだが、すでに解明済み。今更調べる必要もない種族だ。それよりも生態系を守る事こそ大切だよ。子供が来て遊んで、それ以外には何もいらない」
 妖精達にとって、この環境はとても心地よいはずだ。彼らは子供が好きで、好意を持ってくれる者が好きだ。
「あいつらはギルドに虚偽の報告をしてまで、あれが欲しいのか。あれにそれほどの価値があるのか?」
「あれ、緑に光ってるよ。たぶん噂に聞く幸福の妖精だよ。羽根がすごく綺麗で、バカらしくなるほど高価なんだ。持っていると幸運が舞い込んでくるから、金持ちはみんな欲しがるよ。ただ、あの人のいった通り、少数種族。保護指定を受けていて、どんな事があろうとも手を出してはいけないことになってる。理力の塔の取り決めだよ」
「馬鹿らしい。理力の塔と対立するつもりか?」
 兄弟は妖精を見て、雇い主に腹を立て始めた。死の精霊憑きは普通、ちょっとした感情の揺らぎで誰かを殺してしまうものだが、その兆候すらない。よほど強い魔具でも身につけているのだろう。ひょっとしたら、そのことでハウルの兄が関わっているのかも知れない。ハウルの兄なら同じく神だ。人では手の出せないレベルの魔具も簡単に調達できる。
「契約違反だな」
「でもよりにもよって、理力の塔の管轄だよ。つぶさなきゃ」
「そうだな。相談した方がいいのだろうが、それをしている時間もないな」
 二人の会話は奇妙だった。敵対組織のことなど、なぜ気にするのだろう。それ以上に、なぜ理力の塔についてそれほどまでに詳しいのか。
「そいつら、結局何なの?」
「よくわからんが、害はなさそうだ」
 ハウルの言葉を聞き、彼女は小屋から下りてくる。言葉は悪いが、猿のように身軽に隣の木を使い降り立つと、二人の少年を正面から見据えた。弟と目が合うと、彼女は顔をそらした。
「君たちはここで何して遊んでたの?」
「妖精とかくれんぼだよ。文句でもあるのかい」
「ないけど、本格的で楽しそうだね」
「ああ、楽しいよ」
「ところで、この森は危ない?」
「危ないはずないだろ。危ない森で老人が薬草を採れるとでも思ってるの? 悪意があればともかくね」
「だよねぇ。一体何に襲われてあれだけの被害が出たのやら」
 アヴェンダは敵に容赦はないようだ。容赦していれば付け入られるので、仕方がなかったのだろうが。
「ごめんね、遊んでるところ邪魔をして。兄さん、行こう」
「ああ。邪魔した。心おきなく遊べ」
 言って、二人は去っていく。まだ姿は見えるが、ないしょ話は絶対に聞こえない。
 ハウルはカロンを見て、二人を指さした。
「追うか?」
「だな。彼らの事も気になる。君の兄の友人なら、悪い人間ではないだろうが……何かあるな」
「でも兄貴は彼女のためなら何でもするからなぁ。その意味じゃラァスよりもひどいぜ。何でもする」
「追うか」
「ああ」
 彼の祖母に対する執着を見ていると不安になりはするが、ヴェノムが育てたのなら、おそらくその手の倫理観では問題がないはずだ。
「あたしも行くよ。村でなにかあったら困るからね。お前達はそこにいな。あんた、この子達をちょっと頼むよ。ラフィニアはちゃんと見てるんだよ。できるね?」
 アヴェンダは近くにいた少年に指示する。ラフィニアを探すと、ロウラの横で飛んでいた。抜き身の剣を握っていたヒルトアリスは、心配そうに覗く子供達を見回た。それから、彼女は慌てて剣を収め、アヴェンダの側に寄り添った。アヴェンダは、少し顔を歪めた。彼女の行動が不思議でならないのだろう。この場にいるのもアヴェンダと会話するのも一時の事なので、カロンもハウルも気にせずに二人を追った。

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