15 女王様の家出

3

 香りよいお茶が湯気を立てている。
 イレーネに出すよりもかなりランクは下がっているが、それでも高級茶葉の内に入るものだ。
 カロンはあまり細かな味にはこだわらないことにしている。味の違いは分かるが、こだわりはない。
「突然お邪魔したのに申し訳ありません。どうぞおかまいなく」
「いただきます」
 頭を下げるケイリの隣で、出されたお茶を遠慮無く飲むゲルト。
「ゲルト……はしたないよ」
「あ、美味い。淹れ方上手いなぁ。ミスティの店で使ってる茶葉と同じなのに」
 ゲルトはいかにも子供子供した雰囲気を持っていながら、意外な事を口にする。
「あら、意外に肥えた舌をしているのですね。アーリアは確かハーブティを好んで飲んでいると思いましたが」
「お茶はねーちゃん……イレーネ様と一緒によく飲んだんで。一緒にいると美味いもん食べられるんですよ。俺はお茶が好きだから色々と飲ませてもらってたんで。確かミスティの一部のレストランで使ってる茶葉ですよ」
「そういえばイレーネ様と同郷でしたね」
 イレーネと同じ村で育った、本来ならば魔道などとは縁がないはずの少年は、アーリアに毒されきることなく純朴な笑みを浮かべる。
 毎日飲んでいても味の違いなど分からない者は分からないから、彼の舌は確かなものである。
 カロンも高いだろう、安いだろうということしか分からないから、カロンよりもいい舌を持っている。
「あ、でも師匠の作る薔薇茶も美味しいですよ。美容一番とか言いながら、肌に良さそうなもの入れまくりますけど」
 ケイリはカップを眺めながら言う。
 酸味がありそうなものを想像する。肌には良さそうだ。
「おかわりはいかがですか。良ければおかわりにはイレーネ様にお出しした当家で一番味の良いものをお持ちしましょうか」
「いやいや、そこまでしていただくわけには」
「味の分かる方でしたら、仕入れた側としても安心して出せます」
 ゲルトは嬉しそうに破顔する。そしてふと月を見上げた。
「そういやねーちゃん、どうしてるかな」
「見つかりませんよ、あそこは。見つけようと思ったら、海面すれすれを移動する必要があります。マディアスには近づけない場所です」
「マディアス様、怒ってるのかなぁ」
 探すのが馬鹿らしくてこっそりこの屋敷にやってきた二人は、少しばかり不安げだ。
「いつものことだと思うけど」
「それもそか。マディアス様が穏やかなことってあんまりないもんなぁ」
 幼い頃からの付き合いで、マディアス経由で薔薇の魔女と知り合ったというゲルトは、カロンよりはよほど彼と接触しているはずだ。
「ねーちゃん、マディアス様と仲直りできるといいな。ねーちゃんマディアス様大好きだし」
 つんとすましているが、イレーネにとってはマディアスがこの世のすべてといっていい。
 無理矢理すべてを与えられ、頼る者はただ一人で、そんな状況になれば必然的に依存してしまう。それが好意に発展しただけ。
「マディアス殿のあれが、簡単に治るとも思えないが」
 カロンの言葉に、薔薇の弟子達はため息をつく。
 ダメな大人がいると、子供というのは逞しくなるものだ。二人はきっとよい大人になるだろう。


 腹を満たして星を見上げ、身体が冷えてくると奥へ引っ込み毛布を被る。
 たき火に使われている火はハウルの魔力を糧に燃えているため、彼がここにいる限りは燃え続ける。
「本当に快適ですのね」
「だろ」
「夏のバカンスに来ていたら、もっと素敵だったのでしょうね」
「夏になったらまた来いよ。俺も時々泳ぎに来るしさ」
 ハウルはイレーネにワインを差し出して言う。ワイングラスなどはないが、冷えてはいるし味もいいはずだ。女王陛下に出すような物ではないかも知れないが、庶民がそうそう飲める物ではない。
 値段以上に味もよいので、ヨハンが気に入って隠しているものだ。
「なぁ、イレーネ」
「はい?」
 ハウルはハウルが幼い頃に手作りした不格好なカップを手に首をかしげる。
「朝になったらどうする?」
「朝になったら、出て行ってさしあげましょうか」
 彼女は少し不機嫌に見えた。
 彼女も自覚があるのだろう。俯いてため息をつく。
「イレーネは本当に結婚するのか」
 何度か口にした言葉。
 しかし肝心の言葉を今までは付けなかった。
「マディアス以外と」
「ぶっ、けほっ、こほこほこほっ」
 ワインを吹き出して咳き込むイレーネの傍らに寄って背をさする。
 ハウルは鈍い鈍いとラァスによく言われるが、さすがに気づく。イレーネはただ構って欲しい子供のようで、結婚の言葉でただ相手の反応を見ているのだと。
 彼女は落ち着いてから一口ワインを飲んで深呼吸する。ハウルは椅子に戻り、ジュースを飲むようにワインを口に含む。
「ハウル様こそ、ヴェノム様以外の彼女が欲しいんですか?」
「ぶばっ」
 咳き込みこそしないが、ラァス以外にほとんど言われたことのない言葉にワインを吹き出した。
 毛布を濡らしてしまった。
 汚い。
「な、なにをいきなりっ」
「ラァスに尋ねても可能性は半々だと言われましたが」
 彼女は言葉を切って微笑む。
 かなりの猫かぶりだとは知っていたが、この微笑みは恐ろしい。
 ラァスもそんな相談を受けていていながらハウルと普通に談笑していたとは、友達がいのない男である。
「男性の初恋は母親といいます。あなたの場合はおばあさまだっただけでしょう」
「初恋は…………」
 思い出したくない記憶に涙が出そうになる。
「血がつながっているから何もないだけで、血もつながっていなければ珍しいことではありませんもの」
「そりゃヴェノムのことは好きだけど、そういうのは……」
「わたくしもです。もう自分の感情がよく分からないというか。好きには好きなのですが、何ともよく分かりません」
 言われてみればハウルもそんな気がした。
 ヴェノムが他の男と仲良くしているとそれはもう腹が立つのだが──
「どうせ見込みもありませんし」
「確かに」
 二人ともそれはたいそうご長寿だ。
 ヴェノムはかろうじて人間だが、本来は神の契約者としてウェイゼルに仕える巫女にならなくてはならない立場である。それは人間を捨てることを意味する。だからヴェノムは「かろうじて」人間なのだ。
 マディアスは自分で人間を捨てている。
 ハウルも半神だが、二人ほど人間離れしていないような気がするのだ。
 八方ふさがりでため息をついたとき、それを吹き払う春の突風のような声が響いた。
「見込みがないとか諦めてるんじゃないわよっ!」
 バラの香りがした。
 美人だが、幸薄そうなくせに強烈な印象の女が仁王立ちしている。
「……アーリアさん、ここで何を」
「マディアスは来られないから安心なさい」
 そんなことは聞いていないのだが、彼女は無視してほどほどに豊かな胸を張って手を差し出す。
「覚悟を決めたのねイレーネ様」
「か、覚悟?」
「大丈夫よイレーネ様。マディアス様も男。酒飲まして理性を飛ばしてしまえば簡単に落ちるわ」
「なっ……」
 二人は絶句する。
 なぜそんな話になるのだろうか。もっと、何というか、ピュアな話をしていたような気がするのに。
「ヴェノムもよっ」
「なっ!? なんでヴェノムがっ」
 確かにヴェノムは酒を飲ませたら簡単だろう。だから外では絶対に飲ませない。自分の前でも飲ませない。飲むなら部屋にこもって内から開かない鍵かけてから飲めと言っている。そこまで言って飲んだことはないが。
「あら、坊やは慕っている相手にいかがわしい気持ちをぶつけるのが汚いとでも思っているのかしら。
 恋に年齢とか家族とか、よっぽど血が近くない限りは関係ないのよっ!
 坊やほどの少年がやりたい盛りなのはヴェノムだって承知よ! あの女はむしろ喜んで受け入れるっ!」
 色々言いたいが、喉から声が出てこない。はくはくと口を開閉して立ちすくむ。
 望んでいるのはそんなことではない。そんなことではないのだ。もっと、こう、綺麗なものである。
「いいこと。欲しい物は何をしてでも奪い取りなさい! ああいう変に真面目な連中は、真面目な相手と一度関係を持てばなし崩しよ! よっぽどの事がなけば」
 祖父であるテリアは、ヴェノムに対して「よっぽど」の事をしたのだ。数年も帰ってこなかったらしい。一度帰ってきたらまたすぐに出て行って、またまた数年帰ってこなかったらしい。それで切れたそうだ。そしてメビウスの事で気まずくなり、徹底的に避けるという事態に陥った。好きだと言いながらやはり帰ってこないので、二人の復縁はないだろう。
「マディアスもよっぽどのことがあって誰かと別れたんですか?」
「私と付き合ってから薬品が爆発したとか窓の覆いが外れたとかなんか色々といちゃもんをつけて別れたわよ。他はよく知らないわ」
「マディアスと付き合ってたことがあるんですかっ!?」
 イレーネはショックを受けたらしく、肘掛けにもたれかかる。
 マディアスも何を考えて彼女と。
 好みなのだろうか。確かに美人だが、何か色々とものすごい気迫を感じる女性なのだが、こういう気の強いタイプが好きなのだろうか。
 しかし何なのだその別れた理由は。
「二人とも踏み出す勇気がないのね。うぶで可愛いじゃないの。
 いいわ任せておきなさい。私は他人をくっつけるのは得意なのよ!」
 逆のような気がするのはハウルだけだろうか。
 何というか、カップルを別れさせて喜んでいそうな印象がある。
「あの女をフリーにしておくと、私の狙った男を誘惑するのよ。坊や、何としても落としなさい。やってしまえばなし崩しよっ」
「…………」
 何なのだろうか、この動機。それで応援されてもあまり嬉しくない。応援のされ方も嬉しくない。
「イレーネ様も、好きなら好きと言ってしまった方がすっきりするわよ」
「で、でも……」
「あの年寄り達は若い子に好きって言われたら嬉しいわよっ! 自分なんて相手にされないなんて美化しちゃダメよ!」
 なんだかそう言われるとそんなような気もしなくもない。真剣に話し合っていたのに、なんだか馬鹿らしくなってきた。若者の悩みなど、彼らのような年寄りからすれば鼻で笑い飛ばされるような問題なのだろう。
「ほら、行くわよ」
「戻るんですか」
「マディアスは屋敷で待っているから、宣戦布告するなり、酔わせるなりしなさい」
「そんないきなりっ。心の整理とかいろいろ」
「悩んでいたら若さがなくなるのよ。本当に若い内に落としなさい。あとはイレーネの腕次第。
 ぼうやは父親嫌いでしょう。ぎゃふんと言わせるチャンスよ。やっておしまいっ」
「何をっ」
 ハウルとイレーネは薔薇の魔女アーリアに振り回され、この人と付き合うのは大変そうだなと思いながら、引きずられるようにして洞窟を出て屋敷に戻った。
 何とも短い家出であった。


 マディアスという男は、扱いにくいようで扱いやすい男だ。
 何を好み何を嫌うか分かりやすいためである。
 現在、茶を飲んで落ち着いている。
「これはどこの銘柄だ」
「それはあそこで眠っている彼女が作った茶だ。若くともアヴェイン。健康に良く、リラックス効果が高い」
 現在の彼に必要なものである。
 とうのアヴェンダは、ラフィニアを抱えて、ノーラ、キーディアと並んで眠っている。アヴェンダが小柄なので眠っているよけいにと幼く見えて微笑ましい。下手に動かすとせっかく寝たのに起きてしまうので、部屋に運ぶのはもう少し落ち着いてからで良いだろう。アーリアの弟子達は、暇らしく本を読んでいる。
「そういえばイレーネが、アヴェインの知り合いが出来たと喜んでいたな」
「実家以外はあまり一カ所にとどまらない一族だから、知り合う機会もあまりない。喜びもしましょう」
「怪しげな魔動機を部屋に飾っていたこともあったが」
「私の知り合いに具神様から信頼を寄せられている技術者がいます。塔へ敬意訪問したさいに私が紹介しました」
「ここは」
「私が紹介しました」
「全部貴様かっ」
 カロンが紹介したのは本当だ。かばっておかないとミスティのことがばれる。
「イレーネがよく出歩くと思ったら、原因がこんな所にいたとはっ」
「私は紹介しただけ。交流を深めたのは彼女です。なに問題などありません。みな貴族のご令嬢やご子息などしっかりした身元の方ばかり。どこの馬の骨とも分からぬ者とは違います」
 マナラ達とか。ヒルトアリスとキーディアもこの中では貴族だ。
 貴族でなくとも地位はしっかりした者ばかり。心配されるような者は紹介などしない。
「殿下はまだお若いのに、本当に顔が広くていらっしゃる」
 ヴェノムがいつものようににこりともせずに菓子を差し出した。
 もう夜だが、吸血鬼は気にせず手を伸ばす。彼は甘いものが好きである。
 その匂いをかぎつけたのか、ラフィニアがアヴェンダの膝から飛び立ちテーブルにのる。
「ちょーだ」
 手を差し出す彼女に、マディアスは顔をしかめてクッキーを渡す。
「む……娘?」
「妹です」
「嘘をつくな」
「始祖ですよ」
 カロンは行儀の悪いラフィニアを抱き上げて膝に乗せる。
「私に似て可愛いでしょう」
「お前は育てない方が賢明だ」
「賢くよい子に育っているよ。なぁ、ラフィ」
 クッキーをほおばりながら彼女はマディアスを見上げている。
 食べ物をくれたいい人などと思っていたらどうしよう。
「もう少しだけ人見知りしてくれればありがたいが」
「おちー」
「美味しいか。ヴェノム殿にありがとうというんだよ」
「べの、ありゃとー」
 ヴェノムはラフィニアの頭を撫でてマディアスの隣に座る。一人起きているヒルトアリスは、ラフィニアを見て心和ませている。
 マディアスはため息をついて、浮かぬ表情で茶を飲む。カップを置いたかと思うと組んでいた足をほどいて腕を組みドアを睨んだ。
 どうやら帰ってきたらしい。
 しばらく待つとアーリアを先頭に、疲れた顔をしたハウルとイレーネが部屋に入ってくる。さらに吸血鬼二人もいたのだが、部屋には入らずにドアを閉めた。ちょっと待てと言いたいが、気持ちも分からなくはない。
「さて、イレー……」
 マディアスはなんとも浮かれたアーリアの黙れと言う仕草に口をつぐむ。自分が連れてきたくせに少しおびえが混じっているのはなぜだろうか。
「責めちゃダメよ。若い二人には悩みが多いんだから」
「何の悩みだ」
「おほほほほほっ」
 アーリアは高笑いながらハウルの背をばんばん叩く。彼は疲れた様子でこちらを見ない。どんなやりとりがあったのやら。
「マディアス。同じ屋根の下に暮らしながら気付かないなんて、本当にだめな男ね! 本当に年寄りどもは若い頃の熱をどこに忘れてきたのやらっ!
 少年少女の繊細な心が分からないなんて、年は取りたくないものね。ああ、この切ない心を分かってやれないなんて」
 アーリアには言われたくないだろうが、話し合っていた内容は何となく察しがついた。彼女は年寄り共と、ヴェノムを含めていたから。
「ハウル君、ひょっとしてついに自覚したのかい」
「なっ!?」
「まあまあ。お兄さんは前から応援していたから」
「な、何の応援だっ!?」
 カロンははははと笑う。
 ヴェノムが気付かないのは、仕方がないとも言えよう。彼女にとって彼はまだ子供だ。全力で好いているのは誰の目にも明らかだが、身内だからととれなくもない。彼はきっと昔からあの調子だから。
「さすがいい男は違うわ」
「は、ははははっ」
 擦り寄ってこられて声が裏返る。
 この女性、やはり苦手だ。
「ハウル、何か悩みがあるのですか。私に相談できなくて、アーリアに相談できるようなことが」
「べ、別に相談なんてっ」
 声がうわずって、顔を合わせない。うつむいて、心なしか赤らんでいる。
 自覚のほどはともかく、純情な彼は一体何を吹き込まれたのだろうか。イレーネの方も少し気まずげに視線をそらして保護者に心配されている。
 双方なぜ話してもらえないのか悩んでいるだろう。
「とりあえず、もう夜も遅い。女性にとって夜更かしは美容の天敵だろう。話は明日にして眠るとしないかい」
「そだな」
「ええ、そういたしましょう」
 ハウルとイレーネがカロンへと歩み寄り、感謝を述べて部屋から出て行こうとする。
 本当に何を吹き込まれたのか。
「ハウル君、キーディアを部屋に運んでくれないかい。ヒルト以外寝てしまってね。私はアヴェンダとノーラを部屋に連れて行くから」
「わ、わかったっ」
 ハウルはキーディアを抱き上げると、さっと部屋から出て行く。
 居たたまれない様子である。
「純情な子達ねぇ。
 ケイリ、その子達運ぶの手伝いなさい。小柄なこの子なら大丈夫でしょ」
 本を読んでいたケイリは、肩を回してから、よいしょとアヴェンダを抱き上げる。心なしか嬉しそうだ。
「部屋はハウル君を追ってくれ。私はノーラを運ぶから」
 カロンはラフィニアを頭の上にのせて、普通の少女のように眠るノーラを抱き上げた。ラフィニアが自分で飛んでいるから出来る方法である。
「その子時精霊? なんだか人間みたいね」
「私が作って育てた、私の精霊だから人間らしいのは仕方がない」
「つくって……」
「君の師匠の母君が残した技術を応用してね。幸い粛正はされなかったよ」
 アーリアの瞳がぎらついているような気がする。
 ひょっとしたら、余計なことを言ったかも知れない。
「すてきっ」
「いやいや、イレーネでもあるまいし」
「あの台詞は私の受け売りよっ」
 知らなかった。
 そこまで親しいとは。
「発表してないでしょ。どうやったのっ」
「基本はカオス殿の母君と同じだよ」
 ただカロンはその道の知識を持っている。前例と知識。これらがあるから可能だった。
 それを言ってしまうと、付きまとわれそうで恐ろしい。
「そういえば、ハウル君達には一体何を吹き込んだんだい。様子がおかしかったが」
「ああいうタイプは一度関係を持ったら落ちるわよって言っただけよ。二人ともそろそろ子供から卒業してもいい頃でしょう。
 イレーネの場合は好きでもない男と結婚するよりは、初めてだけでも好きな男との方がいいだろうし、男の子は傷はつかないし」
 もっともなのだが、二人の様子がおかしいのも納得できた。イレーネでもさすがにずばりと言われた後では、マディアスと顔を合わせにくいらしい。ハウルはいつものことだ。
「悩める少年少女のために、一肌脱ぐって約束したのよ。あなたもぜひ手伝って!」
「それに関して手伝わない理由はないが……あまり口を出してはややこしくなることも」
「大丈夫よ。私が何人のカップル成立させたと思っているの!」
「クラッシュではなく?」
「私は恋の矢を持つ女と呼ばれているのよ。ヴェノムに聞いてみなさいな」
 ひょっとして、いい男と目をつけた相手が好きだった女と上手くいくとかそういうものではないのだろうか。
 やる気の魔女を横目で見てため息をつく。
 うつむくとノーラの寝顔が目に入り、微笑ましい姿に笑みをこぼした。子供は眠っているときが一番可愛い。癒される。
 しかしノーラも精霊のくせに抱き上げられて起きないとは、本当に子供のようである。キーディアと遊んで疲れたのだろうか。最近仲がよい。
 人間ではないが、キーディアも幽霊以外の友人が出来ていい傾向ではないのだろうか。外遊びを覚えてくれたのは育ての親としては嬉しい限りである。
「さて、私はこの子の調節があるから失礼するよ。応援はするが、あまり二人を追い込まないでやってくれたまえ。真面目な子達だから」
「もちろんよ。恋愛には雰囲気は大切でしょう。うふふふっ」
 楽しそうだ。
 自分の恋以外でも彼女は首をつっこめれば楽しいようである。
 カロンもその手のタイプだから、気が合わないことはなさそうだ。恋愛の対象として見られていなければ。
 有能な魔女には違いないし、知り合っておくに越したことはない。どうにかして『友人』になることが出来ればいいのだが、どうしたものかと思い悩む。
 一番は、好きな相手がいると理解してもらうことだろう。
 女装時のラァスの写真などのろけつつ見せたら納得してくれるかも知れない。
「お休み、アーリア殿。よい夢を」

 

感想、誤字報告いただけたら幸いです

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