20話 少しだけ

 その薬屋は店の受付の女の子達がものすごく可愛いと評判になった。
 開店から一週間、大きなトラブルもなく、医者の診断に従い薬を処方したり、傷薬や化粧品を販売している。化粧品は美容重視ではなく、肌質重視らしい。ヴェノムが趣味でやっている事なので、ハウルにはよく分からない。
 ハウルは何をしても肌が荒れないので、全くと言っていいほど縁がないのだ。
 そう言うとヴェノムに叩かれる。
 元からの街の住人はいい人が多い。マフィア気取りのが一回来ただけで、他は覗きに来ただけでも軟膏を買ったりしてくれている。軽い外傷ならこれ塗っておけというアヴェンダの言葉で、なぜか人気商品になった。
 ハウルはとくにすることもないので、男手がいるようになったら呼んでくれと、向かいにある宿の部屋でくつろいでいる。ここからなら、もしもの時に飛び降りて駆けつけられる。
 カロンも一緒だ。
 中年女性に囲まれて、一日で懲りた。男と違って、女は遠慮がない。男が女の腕に気安く触れたら訴えられるが、逆はなかなか難しい。
「おや、何かもめているね」
「アヴェンダがどうにかするだろ」
 彼女は他人を丸め込むのが上手い。喧嘩の買い方、そのあとの流し方、商人の鏡である。
 こういう街だと、それが出来ない店長では役に立たない。
「そろそろ腹が減ったな。昼飯作ってくるよ」
「ああ、いってらっしゃい」
 昼食はキッチンを借りてハウルが作っている。女達は仕事をしているから待機しているハウルが作るのが道理だ。正面からはカロンが見ていれば安心だし、カロンでは料理が心配なのでハウルが作る。
 昼は簡単に食べられるサンドイッチとスープを作り、順番にたべてもらう。夕飯は皆で一緒に食べるので、大鍋に作る。身内に加えてアヴェインの店員が他店からの応援含めて五人なので、けっこうな大所帯だった。
 しかし開店一週間の今夜は外食の予定がある。だから今日の料理はこれで仕舞いだ。あとで朝食用のパンやら卵を受け取りに行くだけ。さすがに飽きてきた料理からも解放される。ハウルも料理は好きなのだが、さすがに毎日大量だと飽きるのだ。
 キッチンへと勝手口から入ると、表でアヴェンダの啖呵が聞こえた。
「ここは薬屋だよ! 買わないんなら出ていきなっ! 賑やかしはいらないんだよ!」
 ああ、やっているやっている。
「そっちの男は、ニキビ薬があるから、買いたければ買っていきなよ。顔はちゃんと一日一度は石鹸で洗うんだよ!」
「っせー!」
 アドバイスをしている。男は不潔にしてニキビをひどくしている場合があるらしい。
「ニキビ用の石鹸もあるから、悩んでたら考えておくといいよ。いつでもあるから」
「どうでもいいだろ、そんなことっ」
「ニキビは辛いもんだから、あきらめないで手入れしなよ。するとしないでは結果が違うからね」
 アヴェンダは誰に向かってニキビ薬を売っているのだろうか。
 他所から来たタチの悪い冷やかしか、地元の不良か。
 問題なさそうなので朝茹でておいた卵をむき、細かく刻んだ野菜と調味料であえる。ハムと野菜とチーズを用意し、バターやマヨネーズを適量塗る。
 ハウルが屋敷の庭で育てた葉野菜をパンに乗せたとき、キッチンにキーディアが入ってきた。もちろん不気味な仮面ではなく、母手製の仮面だ。
「あ、ハウルさん」
「どした?」
「先生にお茶を入れようと思って」
「もうすぐ飯だから水でいいだろ。朝から煮込んでるスープもあるからな。美味しいぞ」
「はい。お手伝いできる事はありますか?」
「じゃあ食器を用意してくれ。最初に休憩する連中のはすぐに出来るから」
「はい」
 パンに挟んで切るだけ。素材の味が勝負のこの料理ために、暇なハウルは毎日買い物に出ている。カロンでは野菜の良し悪しなど分からないからハウルが行く。基本的に王子様なカロンはただラフィニアと遊んで見守るだけである。
 ラフィニアも一歳にしてほとんど大人用の料理が食べられるから楽でいい。治癒の力を持つ彼女はアレルギーの心配もない。最近のお気に入りは卵だ。ゆで卵を切って塩で味付けして与えると喜ぶ。バターで炒めても喜ぶ。可愛いのだ。のんびりしているはずの二人には、全部作り終えたら持っていく予定である。
 今日を終えたら、ヴェノムは帰る。ヒルトアリスはもう少し手伝うと言っていたが、ハウルも帰るつもりだ。初日に比べると冷やかしも減ったし、本来ならいないはずのヴェノムが長くいてはアヴェンダのためにはならないからだ。
 そろそろ自分達で食事も作るべきだろう。女が揃っているのだから、それは心配ないはずだ。
 アヴェンダに作らせると、きっちり分量を量るので時間はかかるが、出来ないわけでもない。
 心配する必要はない。
 そのはずだ。


 怪我をしたら客になる可能性もある冷やかしの客を追い払い、アヴェンダはため息をつく。
 本当に、柄が悪い。元々住んでいる者達はいい人もいるが、よそ者を冷たい目で見ている者もいる。
 そんな中、客の中には時々知った顔が混じる。
 キーディアが何か言っていたのか、コルカが開店祝いに日持ちする菓子と立派な花を持ってきてくれた。死霊術師のくせに信じられないほどマメな男だ。
 他にはウェイゼルも来た。
 ヒュームも来た。
 こいつらは女性客にちょっかいをかけてとにかく邪魔だった。女ばかりだからこそ来たに違いない。追い返すのには苦労した。
 その他は、アミュと姫君達。
 アミュはともかく、姫君達は厄介ごとが起こりそうで来ないでくれたら嬉しかった。とりあえず進展は多少あったようで、ネフィルに婚約指輪をもらったと言っていた。
 どうやら彼女の中では、兄と慕う従兄から求婚されたことになっているらしい。両者、本当にそう思い込んでいるらしく、人の時に記憶がないのも本当で、気持ちと記憶に差異がある。そのためネフィルは納得し切れていない様子だった。可哀相なネフィル。
 ラァスもそろそろ来ると言っていたが、ハウル達が帰る前には来れるかどうか分からない。理力の塔の支部と呼ぶには貧相な、固定魔法陣を囲う堂のような建造物は、現在まだ完成していない。一番近くて馬車で二、三時間ほどかかる場所になるのだ。
「ほんっと、ハウル、あんたはヒルトアリスよりはいい嫁になれそうだね」
「ヒルトと比べるなよ」
 休憩に入って飲んだスープが本当に美味いのだ。野菜だけではなく、滋養にいい薬がかなり入っている。緑でどろどろなのに美味いのだ。病人でも無理なく食べられそうだ。
「あとで作り方教えてよ」
「別にいいけど、薬によっては食べられなくなるぞ。先に味見して苦みを確認して調節したからな。分量も味を見つつだし」
 本当に、こんな新妻がいたら男は感動するんじゃないだろうか。魚料理だけでなく、肉料理も作れば完璧なのだが、彼が作るとサンドイッチの具も、魚フライが混じる。
 それでも一週間、朝昼晩と作り続けても文句をいわず、人数に会わせて作るのだ。おかげで生活面の事は気にせずに仕事に没頭できた。頭が下がる思いである。他の店員達もほとんど未婚だから、年下の万能美少年に色めき立っている。カロンは温かく見守るだけの子連れなので、顔はいいけど……と言われているが。
 同年代からしたら自分より料理の上手い男は嫌だという事も多いが、年が違うと丸く収まるようだ。
「ところで、感じはどうだ?」
 客の感じ。人の感じ。実際に歩いた街の感じ。
「さあねぇ。どんどん変わっていくよ。あたしらはただここにあるだけさ。女だからって見下す連中もいるだろうし、女だからって親切にしてくれる人もいるだろうし」
 女ばかり雇うのは、逼迫しているのが女の方が多いからだ。男は身体を簡単に労働力とできるが、女は難しい。
 薬草の見分け方を教えて、真剣に聞くのはそういう女。真剣に聞かなかったら雇わない。真剣に聞くなら男でも雇う。知識が先にあれば即戦力として、長くはない試用期間と適性審査の後に正式に採用。
 あとは物覚えがいいか悪いか、丁寧な仕事をするかしないか、問題を起こすか起こさないか、対人能力があるかないか。
 イレーネがやっている事とほとんど同じだ。あそこも、女の子の方が多かった。
「今のところは口で言って帰る連中だけど、やっぱり心配だな。お前は戦闘向きの魔道士じゃないし」
 色々と護身術感覚で覚えたが、殺傷能力が低いような使い方ばかりだ。
「あたしは薬が専門さ。傷をつけるも癒すも、術では専門じゃないんだよ。先生は薬師としての先生だったしね。
 それに女が強すぎると可愛げがないよ。性格に可愛げがないから、そこまで出来ると、変な連中が寄ってくる。何事もほどほどが大切なんだよ。もしもの時はこれがあるしね」
 彼女が御巫に近い事をさせられているのは、夢神。癒す事も病ませる事も出来る夢。手をかざすだけで眠らせるほどには使いこなせるようになった。彼女には相応しい力だ。
 もちろん知られてはまずい。夢は現を拒否する麻薬にも似た力を持つ。知られれば狙われる可能性も高い。
 薬とは使いようだ。
「大変だろ、それの相手しながらってのは」
「あらかじめ一ヶ月は寝る時に腕輪を外すって伝えてあるからいいよ。私生活を犠牲にさせるんなら、もうオモチャは買ってこないっていったらしょんぼりしてたよ」
「それならいいけどさ」
 ハウルはテーブルに頂き物の苺を乗せた。
「そろそろ痛み始めてきたから、余った分はこれからジャムにするな」
「まめだねぇ」
「もったいないだろ。先生達にわけても余ったし、お客さんにわけてたら変な風に殺到しそうで怖いし」
 近所に分けるほどまだ親しくはない。分けなかった相手が恨みに思う時もある。近所付き合いとは難しい。だから人間関係が出来上がるまでは、下手な事はしない方がいいのだ。
 するとしたら、地元民である医者の先生に相談をしてから。苺はそこまでするほどのものではない。
「そういや、砂糖の予備ってあるか?」
「調味料はそこの棚になかったらもうないよ」
「そか。じゃあ買ってくるよ。他になんかいるか? 俺は明日帰るから、重いモンだったら今日中に言ってくれよ」
「じゃあ、小麦を買ってきてよ。さすがにこの人数だと消費早いから大きいの。病院の大八車つかっていいよ」
「わかった。日持つする重い野菜も買っておくか。明日のためにポタージュ作っておくから」
「また薬草入りの?」
「どっちでもいいぞ」
「今度はきっとり計ってメモしてくれると有り難いね」
「計るのか……」
 目分量でどうにでもなる器用な彼には、おそらく初めての事だろう。これを見ていると料理って簡単と思えてくる。
 何でもきっちり計らないと気がすまないアヴェンダとは正反対の作り方だが、命に関わらない事では本当はそれで十分なのだ。そう思っていても、目分量でほぼ確実なグラムが分っても、確認せずにいられないのはやはり職業病なのだろう。命を預かる場合、どれだけ確認してもしたりないという事はない。
「アヴェンダちゃーん、悪いけどお客様のご指名よぉ」
 店の方から声がかかり、ため息をついて立ち上がる。サンドイッチを口に押し込みスープで流し込む。本当は味わいたいのだが、呼ばれたのでは仕方がない。
「じゃ、いくよ」
「がんばれぇ」
 手を振って見送られ、首を回して店頭に向かった。


 お店のカウンターで番をしていると、色々な人間との接触がある。
 セルスはそれを喜ぶ。彼は人間の生活に興味を持ち、体験する事が楽しくて仕方がないらしい。何度見てもその喜ぶ顔は女性に見えて、とても可愛らしい。
 男性だと分かっていても、ため息が出てしまうほど綺麗だ。
「ばぁちゃん、また腰が痛いの? 薬出すから、向こうの接骨院に行きなよ」
「ああ、あそこまで行くのは骨が折れてねぇ」
「いい運動になるよ。動かないともっと動けなくなるからさ。痛みを抑える薬使って、無茶しないように毎日歩けば身体もよくなるよ」
 アヴェンダは老女と視線を合わせて話している。彼女は本当に太陽のような女性だ。一つしか歳が違わないなど信じられないほど大人びている。ヴェノムとは違った意味で憧れる女性だ。
 老女を送り出し、別の女の子の相談に乗る。便秘で悩んでいるらしい。病院で診察を受けるほどではないし、年が近いから話しやすいのだろう。
 若いアヴェンダを信用できない者は、最年長の女性に相談する。夫が先立ち子供が独立したので、新しい土地で新しい生活をしてみたかったそうだ。第二の人生を仕事に生きる、素敵なおば様である。
「何日いても飽きませんね」
 セルスはそんな店内を見ながら呟く。
 彼は人間の貨幣についてまだよく理解していないところがあるので、売り上げのメモを取っているのだが、それすらも新鮮で楽しいらしい。
 もちろんヒルトアリスにとっても物を売る側の金銭のやりとりは初めてで楽しんでいる。忙しいのは、どんな薬を求めてどんな効能があるのか説明する薬師達であり、二人は比較的時間に余裕がある。
 ヒルトアリスの中では、薬師というと占い師にも似たイメージがあったから、少しだけ想像と違うのだが、相談を受けるという点では同じだろうか。
 店のドアが開き、新しい客が入ってくる。
 若い男の人が数人。汚れた服装から、他所から来た建設関係の者だと分かる。
「うっわ、近くで見るとマジ美人」
「こんな田舎にもいるもんだなぁ」
 これは、またセルスを狙う不届き者だろうか。この手の変な男の人をいつも簡単にあしらうアヴェンダは真剣に悩み相談を受けている。
「いらっしゃいませ」
 いわれたとおり笑顔で応対してみる。
「なぁなぁ、地元の子? 可愛いねぇ」
「ここは薬屋です。どこかお怪我でも?」
「ねぇ、今夜暇? おごるから一緒にどう?」
「あの、薬屋ですので、ご用がない場合は……」
「じゃあ君は?」
 男はセルスに手を伸ばした。セルスは自分が男性にどう見られているのか理解していないらしく無防備だ。
「触れないでください」
「つれないなぁ」
「健康診断ならお隣です。ここは営業中の薬屋です」
「ちょっとぐらいいいだろ。固いなぁ」
「触れないでくださいと言っています」
 手を伸ばしてくるのが気色悪くて、その手を後ろにひねり押さえつけた。
「いたたっ、いたっ」
「気安く触れないでください。迷惑です!」
 語尾を強くしていうと、男は情けない声を上げる。もう一人いる男を睨むと、刃物を取り出そうとしたので拘束していた腕を放し、背中を踏みつけにしてスカートの中に隠していた剣を抜く。
「私はウェイゼアの騎士。刃物を抜くなら覚悟をなさい」
 容易に刃物を抜くような男、放置など出来るはずがない。店の中、女に抜くのだ。人目のないところで、弱い物へと向けるのは間違いない。
「おい、どうしたんだ?」
 ハウルが店の正面から入ってきた。フードをかぶったラァスもいる。どうやら買い物に出かけた先で合流したようだ。
「この方が刃物を抜こうとしたので」
「なんでそんなことに」
「触れてこようとしつこかったんです」
 ただのナンパであればここまではしないが、刃物を持つ意味を知らぬ者がいる以上、捨て置けない。やはりしばらくアヴェンダのところに留まった方がいいだろう。外には出てこないが妊婦もいるのだ。
「そっか。ヒルトちゃんが用心棒をしているんだね」
 フードを外したラァスがにこりと微笑む。その特徴ある金色の目を見て、騒がしくなっていた店内が凍り付いた。
「大神官様っ」
「ありがたやありがたや」
 客に拝まれ初めてラァスは複雑そうに笑う。
「僕は候補者で大神官は代替わりしていませんよ。顔を上げてください。
 できれば憲兵を呼んできてください」
「はい」
 若い女の子が外へと走っていく。
「お兄さん達、今日は大人しく牢屋にぶち込まれて反省してください。
 あと、女性を侮って気安く声をかけるのはよした方がいいですよ。相手をよく見てからにしないと大変な目に合いますからね。育ちのいいお嬢さんは、護身術を身につけている場合が多いですし。
 彼女達が本気になったら瞬殺されますよ。抜く前でよかったですね」
 ラァスは男に微笑みかけて、ヒルトアリスの手にそっと触れる。彼女は剣を引き鞘に収めた。
「な、なんでこんな所に聖眼持ちがっ……」
「兄弟弟子の店ですから。いい腕ですよ。色々と」
 ラァスの微笑みに男は萎縮し、やがて駆け付けてきた憲兵に連れて行かれる。さすがに二人も大神官候補の前では大人しく、連れて行かれる際にむしろほっとした様子を見せていた。
「これで多少は変なのが減るか?」
 ハウルはラァスを見て問うが、問われた彼は首を横に振った。
「無理だよ。保守的な場所や、ある程度安定していればともかく、人の出入りが激しいと、噂とかが広まってもあんまり意味ないからねぇ」
 この町は建設ラッシュで他からの出入りが激しい。外から見かけて、女ばかりの店と知り何を売っているかも考えないで入ってくるのだ。
 定住者や憲兵はよく見てくれるだろうが、よそ者が入ってくる以上はどうしようもない。
 街が落ち着くまでは、安心できないだろう。
「でも、ヒルトちゃん、相変わらず男の人がダメなんだね。
 だめだよ、ああいうナンパは力でどうにかするほどの相手じゃないから、やんわりと追い返さないと」
「やんわりと? どうすればいいんでしょぅ? 用事があるって断っても食事に行こうって言われたんです」
「嘘でもいいから彼氏がいるとか、デートだからダメって言えばいいよ。いきなりねじ伏せるんじゃなくて、もう少しだけ段階を置いた方がいいね。
 彼氏との約束で引かない身の程知らずには、その格好で? とか、笑いながら言うと、案外引き下がるよ。ああいう人はデートできるだけの服を持ってないから」
 余計に怒らせるような気がするのだが、ラァスならそれで追い返せるのだろうか。腕力があるから逆上してもいいと考えての言葉だろうが、そう考えてもヒルトアリスでは上手くいくかどうか怪しい。
「私にはラァス様のようにはできそうもありません……」
「まあ、ヒルトちゃんは強いからどんな対応してもいいけどね」
 ラァスはくすくすと笑いながら、今度はアヴェンダへと向き直り持っていた鉢植えを指さした。
「これ、お土産だけど、どこかにおける場所はあるかな?」
 アヴェンダは眼を細めてそれをにらみつけるように見つめ、徐々に身を震わせ目を見開いて後ろに下がる。
「ちょ、それっ」
「お祝い何にするか悩んでたら、クリス様が珍しい薬草だから持っていけって」
「珍しいも何も、クリス様の側じゃないとすぐに枯れるって奴だよ! 生葉なんて初めて見る!」
 神様の側でないと育たないなど、本当に珍しい植物のようだ。本人は自分の周りで咲くから簡単にあげられるのだ。ウェイゼルもよく自分の家の庭で作ったという果物を持ってきてくれた。
「クリス様の側じゃないと枯れるわけじゃないよ。一株づつにそれなりの精霊がついていないといけないだけ。条件が難しいから、クリス様のところにいる暇な精霊が趣味で育ててるんだ。これは途中で見つけた暇そうな子にお願いしたから、大切に育てればずっと保つよ。この子もアヴェンダちゃんが気に入ったみたいだから。
 夏場は水をたっぷりあげて、冬は雪から守ってあげてね」
 ヒルトアリスは鉢植えに座る、妖精のような小さな精霊に手を振った。新しい環境で浮かれて踊っているのが可愛らしい。
 アヴェンダはよく土いじりをして、草に触れているから、その匂いが気に入ったらしく、期待に満ちた瞳を彼女に向けている。
「有り難いねぇ。ばあちゃんに自慢できるよ! クリス様に何かお返ししたいところだけど、差し上げるのがかえって失礼になるような物しかないんだよねぇ」
 アヴェンダは鉢植えを抱きしめてはしゃいだ。精霊も喜ばれてはしゃいでいる。植物を大切に育ててもらえそうな雰囲気は、地の精霊を喜ばせるのだ。
「喜んでもらえただけでいいよ。どうせタダだし。大切にしてくれるのが一番のお礼だよ。貢がれまくってるから物じゃ喜ばないしね」
 裕福すぎると、物では心が動かない。神様になると高価な植物も雑草も等しい存在なのだろう。素晴らしい。
「今夜は泊まっていくだろ。ハウル達が部屋を取っているから、そこに泊まりなよ。今夜はすぐ側の店で飲み会もするからさ」
「そうさせてもらうかな」
 ラァスが微笑むと、アヴェンダは顔を赤らめて目を逸らし、鉢植えを抱えて店の奥へと走っていってしまった。


 店の近所にある食堂。
 予約を入れていたので、大皿料理が並べられている。素朴だが目を楽しませ、よい香りが漂い食べる前から満足させてくれる。
 皆がグラスを手にし、中にはハウルが持ってきたワインが注がれている。
 ヴェノムの目に入れないために酒を隠してある事は知っているが、どこからこんなモノを手に入れたと驚くラベルが貼られている。酒をことごとく禁じられてきたヴェノムが知っているほどの銘柄だ。
 そのラベルを見て女達がはしゃいでいる。彼女たちの中では、ハウルという少年は金持ちの息子で顔がよくて料理も出来て親切で頼もしい、と言う事になっているらしい。
 確かに不味いはずの薬草を囓って、そこから美味いスープを作ったのは、少しばかり驚いた。味見をするたびに口をゆすぐなど、ヴェノムでもしない。
 孫の成長にはとても満足している。
 ただ、ヴェノムの前にあるのはワインではなく、ハウルが特別に用意してくれたブドウジュースであるのが、祖母的には気に入らない。
 ハウルが爽やかな笑顔で、ヴェノムのために絞ったから! と言うもので、苦情を言うのも忍びない。美味しいか? と純粋な瞳を向けてくるから、不服でもついつい言葉を飲み込んでしまう。
 ヴェノムに付き合って、自分もワインは飲まないとジュースなのでよけいに何も言えなくなる。
「さて、この店の一番高いワインの売値のさらにン十倍はくだらないワインが行き届いたところで」
 アヴェンダが値段を強調して言いグラスを掲げる。
 持ち込みの礼として、店主夫婦にもワインをわけたので、嬉しそうに頷いている。
 本当にどこからこんなに持ってきたのか。
「一週間お疲れ様でした。そろそろ物珍しさからくる人も減ったし、忙しさは落ち着くと思います」
 アヴェインの名が通っているせいか、この街よりも大きい隣町からも人が来ていたらしい。売れるのはいいのだが、軟膏ばかりなのが厳しかった。とくに手が痛い。
「きつかったら整体に行ってください。経費で落とします」
 女性達の間から拍手が起こる。
「変な人に絡まれてやばかったら、とりあえず煙り玉でも投げつけて逃げてください。できれば一人歩きしないでください。基本的に危険はないだろうけど、こういう街には殺人犯が逃げ込んできたりする事もあるから、念のために。憲兵には見回りを強化してもらうようには『聖人様』が頼んだから、今のところは使命感に燃えてくれているけど、やっぱり人数足りないしね」
 ラァスの効能は、信者にやる気を出させるというのが一番大きい。憲兵はそうそう入れ替わる事もないので、今ここにいる者達に関しては店に良い印象を持ってくれるだろう。その上、女性ばかり。いい顔をしたくなるのが男というものだ。
「今後、店が忙しい日々が続くか暇な日々が続くか、まだよく分からないけど、品質を落とすことのないよう、安全を第一に仕事をしましょう。
 注意事項は以上です。
 では、今夜は無礼講で楽しみましょう、乾杯!」
 高級ワインを堪能する皆を横目に、ブドウジュースを飲む。炭酸が入っていて美味しい。美味しいが、酔えない。
「ハウルさん、美味しいです」
「そかそか。キーディア、ぶどうのはこれで終わりだけど、他のジュースはまだあるからな。ワインもあとあれだけ」
 この時期ブドウを手に入れてきたということは、実家に帰っていた可能性もある。
 ワインはそこから持ってきたとしたら、あのラベルも納得できる。コレクター本人は、ため込みすぎて多少なくなっても気付かないだろう。
 だとしたら出所に問題はない。ジュースも美味しい。
「なんか、人が作ったもん食べるの久々だな!」
 ハウルは肉を食べながら言う。人の作った物、というよりも肉がメインの料理を久々に食べた感の方が大きい。
「わるかったね。ほんと感謝してるよ。初日はさすがに包丁も持てなかっただろうしねぇ。危うくわびしい食事をしてるところだったよ」
 アヴェンダが労うようにハウルの前へと料理を差し出す。
 ヴェノムも同感だった。
 老骨に鞭打って可愛い弟子を手伝ったが、久々の労働で疲れ果てた。季節的にそろそろ城に戻ってもいい時期だが、しばらくはヨハンの世話になるだろう。悪霊達を放置するのは心配だが、わざわざ押し入って殺されるような人間の事まで今は考えられない。暑くなる前に帰ればいいのだ。
 この店の料理もなかなかいい味だ。見た目を裏切らない、素朴だが丁寧に作られた味。これなら、アヴェンダも疲れていたら外食するといいだろう。明日は店が休みなので、各々好きに疲れを癒すだろう。夜はまた世話になればいい。
「ヒルトとセルスは好きなだけデートでもしといでよ。お人形みたいに仲良く並んでニコニコしてるだけじゃ進展しないよ。
 ハウル、あんたもいい男なんだからうだうだしてんじゃないよ」
 アヴェンダはボトルに残ったワインを確保すると、再びハウルへと次々に料理をとりわけ押しつけている。
「……アヴェンダ、お前も酒に弱いのかっ!?」
「まだ酔ってなんてないよ!」
「酔ってるって! 平然としてる見えるのがタチ悪いって!」
「ラァス、美味しいよ。飲みなよ」
 ハウルから今度はラァスへと矛先が向けられる。
「いや、なんかお酒飲む気がなくなって」
「もったいない! もらってあげる!」
 美味しいのと、残りわずかなためか、二杯目を得るために急いで飲んだので酔いが回ったのだろう。以前飲んだ時はそうでなかったが、意外とタチの悪い酔い方をする。この上ラァスの分も確保するのは、ヴェノムが飲むよりも危険がある気がした。
 妊婦になだめられながらハイテンションに酔うアヴェンダ。疲れが溜まっていたのだろう。まだ十七歳で店を任されたのだ。仕方がない。
 明日も彼女は店舗にいるものの休みだ。朝どれだけ寝込んでも問題ない。好きに酔えばいい。
 周囲の男達が引いているが、アヴェンダの婿になりそうなタイプはいないので良しとする。今は本人が楽しければいいだろう。
 微笑ましい弟子達を見守りながら、ちびりちびりとジュースを飲んでいると、新しい客が入ってくるのが視界に入った。柄の悪い男達で、内の一人は一度店にみかじめ料を取りに来て追い返された者だ。あちらもこちらに気づき、既に酒が入っているのと大人数なのをいいことに大きな顔をして向かってくる。
 ため息をつきながらハウルが立ち上がろうとしたので制する。ハウルがやるとなぜか半殺しに近く、被害が大きすぎる。トラブルを招きたいわけではないのだ。
「なぁに、あのこわいお兄さん達」
 ラァスがこくりと首をかしげた。
「マフィアっぽいの?」
「へぇ、飛ばされちゃったのかな」
 ラァスが呟いた瞬間、内の元気な男が彼らを睨み付ける。男の子と言ってもいい、ハウル達と同年代の少年だ。
「んだとコラァ! おい、てめぇ今なんつったっ!?」
「そのアクセント、やっぱりカーラントの人?」
 同じ言語を使っているが、やはり違いはある。彼は確かにカーラントの生まれだろう。同じ下町なまりでも、カーラントとクロフィアは雰囲気が違う。クロフィアはクリスの気性のせいか、国全体が他国よりものんびりとしたところがある。その反面、爆発すると被害が大きくなる。そんな国民性のためか、語尾の発音は若干柔らかい。カーラントはあの根暗と有名な太陽神の国だ。話している本人に自覚はないのだが、言葉の雰囲気が刺々しい。この二国の人間は出身国が分かりやすいことで有名である。
「ここはカーラントじゃなくてクロフィアだよ。カーラントはすぐそこでも、クロフィアに来たらクロフィアだと認識しなくちゃ」
 クロフィアで金目と言えば、伏して奉る対象だ。他の聖眼と違い分かりやすい。金に近い色はよくあるが、聖眼の金目は素人でも分かりやすいほどの色をしている。
 ラァスを見て何も思わないのはこの国の人間ではない。
 もちろん、この国の人間でなくとも、知っていておかしくはない知識だ。
「っんなっ、なんでこんな所に……」
 内の何人かが顔色を変えた。
「女みてぇな顔のくせに生意気ぬかしてんじゃねぇぞ!」
 掴みかかろうとしてくる若い男を見てラァスが動こうとしたが、その前に別の男がそれを止めた。
「馬鹿野郎! この人を誰だと思ってるんだ!?」
「はぁ?」
 ラァスが警戒を解いて椅子に座り直そうとした。
「若旦那のいい人だぞっ!」
 ラァスがずりっと椅子からずり落ちた。そのまま固まり、考え込む。
 どこの若旦那をたぶらかしたのか、心当たりが多すぎて絞れない様子である。
「あの……何の事ですか? あなたとは初めて会うと思うんですが」
 ラァスは絞り込むのをあきらめ、猫をかぶって男を見上げる。
「あ、申し訳ありません。お忘れでしょうが、ここに来る前は若の下についていた者でして」
「その若という方にも心当たりがないのですが。何よりも僕は男ですし」
「は?」
 相手を女だと思い込んで見れば、彼は女にしか見えない。おどろくのも無理はない。
「それはきっと妹だと思います。顔は似ていますが、目の色が違うんですよ」
 男はまじまじとラァスを見つめ、その特徴的な瞳の色にようやく気付く。驚いている彼に、正当な理由で驚いた男が慌てた様子で訴える。
「大神官っすよ! 最近候補者が出たって聞きやした」
「大神官?」
「大地神殿の大神官はみんな金目なんっすよ。年の頃や容姿も噂と一致するから間違いないっす」
「じゃあ若は大神官の妹と付き合っていると」
「そうなります。さすが若っ」
 ラァスが不思議そうに二人を見ている。
 どこの若かまだ予測がつかないのだろう。
「よく分かりませんが、妹がお世話になっているんですね。これからもよくしてやってください」
 知らぬ存ぜぬで通す事にしたらしい。
「ところで、どうしてそんなお方がこんな田舎に?」
「友人がこの町の薬屋で店長をする事になったんです。僕と兄弟弟子だから腕のよい魔法医でもありますよ。よくしてあげてくださいね」
 ラァスが営業用の笑顔を男に向けると、彼はうんうんと頷き、喧嘩を売った若い男を後ろにやる。別の若い男に殴られ、店の外に引きずり出されていた。
 無邪気に見えるこの神官の存在は、暴力による解決よりもはるかに威力のある解決策だ。
 若旦那の恋人と、この国の王並みに発言力のある大神官候補者。
 今後、彼らがアヴェンダの店に嫌がらせをする必要性はないだろう。
「ところで、妹はどんな方とお付き合いしているんでしょうか。なかなか戻ってこないので心配していたんですが」
「い、いい方っすよ! 男前で金持ちで親切な方です!」
「ガノヴァーツっていや、カーラントではけっこう有名で」
 有名だ。カーラントで商売をしているとどうしてもその名は出てくる。商人とマフィアは紙一重だ。
「ガノヴァーツ……って、確かあたしの親戚が嫁に行ったところだよ。薬関係だからけっこうそっち系と縁があるらしくってさ」
「アヴェインの強さは各界の大物ともコネがある事ですからね。女はそのコネを作りやすいのが武器ですから」
 だから女は敵に回すと怖い。男以上に見た目では判断できないのだ。女は身体一つで簡単に縁を作れる。
「今日は飲み会っすか」
「はい。店も少し落ち着いて明日は休みだそうなので、お祝いも兼ねて」
 彼らはちらとテーブルに並ぶワインの銘柄を見て驚く。
 こんな田舎町に進出してきた薬屋の店長が飲むような銘柄ではない。
「そうですか。俺達も何かお祝いしたいところですが、こうも人数がいるとこの店じゃ無理そうなんで、今日の所は別の店に行きますわ。皆さん、お騒がせしました」
 男はひたすらラァスにぺこぺこと頭を下げながら店を出て行く。
 突っかかってきた若い男は、きっと大変な目に合うのだろうが、ヴェノムが気にするような事ではない。
「アヴェンダちゃん、これでたぶんあの人達は変なちょっかい出してこないよ。ガノヴァーツ一家だったら大丈夫」
「…………まあ、そりゃ嬉しいけど……若様とはどういう関係なんだい?」
 アヴェンダが声を潜めて尋ねる。
「ただのお友達だよ。僕の兄みたいな人の友達なんだ。あの人が言ってたようにいい人だよ」
「そう……ならいいけど。顔が広いのも大概にしなさいよ」
「うん、分かってるよ。だから妹に全部かぶってもらうんだし。
 でも何か困った事があったら僕に言ってくれれば手を貸すよ。クロフィアの人なら神殿に介入させられるし、カーラントならさっきのお兄さん達を動かせるし」
「そうならないように願ってるよ」
「そうだね」
 ヴェノムは笑いながら、アヴェンダが口をつけていないグラスをそっと引き寄せた。これ以上彼女に飲ませてもタチの悪いよい方をするだけ。
 しかし捨てるのももったいないし、だれかにやっていてはアヴェンダに見つかる。
 自分もこの程度では酔わないだろう。
 アヴェンダが気付く前に飲み干してしまえば何も問題はない。
「ちょ、おまっ」
 アヴェンダよりも先にハウルに気付かれた。伸ばされるその手を払いのけ、ヴェノムはグラスの中身を飲み干した。味わいたかったが、邪魔をされて取り上げられるよりはよし。
「ああ……おいし……」
 しかしなぜか、そこからの記憶はなく、気付けば朝日が差すベッドの中で、ハウルに抱きしめられて寝ていた。
 相変わらず何もされた形跡はないが、何があったのかまったく理解できなかった。
「……人は、グラス一杯で昏倒することもあるのですね」
 一気飲みがこれほど恐ろしい物だとは思いもしなかった。


 翌日、ハウルは自分が事前に手配した馬車の前で皆を見回した。
 ヴェノムが酒など飲むから色々と苦労して宿に連れ帰り、なだめてなんとか眠らせて──疲れた。本人はそのまま倒れたと思い込んでいるが、実際のところは思い出したくもない、最悪の酔っぱらい方をしていたというのに、気楽なものである。
「ハウル、疲れた顔をするなら、もっと充実したことで疲れたらどうだい。いつまでもそれが可愛いと言われると思ったら大間違いだよ」
「ほっといてくれ」
 ヴェノムには起き抜けに頭を撫でられるし、自分でもどうかと思ったりもするのだ。
 ただ、満足げに眠る彼女を見ているだけで幸せだったのだ。それの何が悪いというのだ。
「ヒルト、アヴェンダに迷惑をかけるなよ。お前、基本的に不器用だから、いいと言われた事はすんなよ」
 これ以上何か言われてはたまらないので、矛先を別の方に向けた。
「………は、はい」
 彼女も自覚はあるようで、沈黙の後に悲しげに頷いた。落ち着いてやればいいのだが、下手に張り切ると彼女は失敗するのだ。
「ヒルト、城に引っ越す前には連絡をします。その時、ヒルトがどうしたいかは自分で決めなさい」
「決める?」
「さすがに海の水妖に山は合いません。水妖は保守的でよそ者に脅えるので、地元の水妖達がストレスをためてしまいます。共にいようと思えば屋敷に留まることになります。同じ魔法陣によって同一人物の往復は多くて週に一度です。勉強を重視するか、彼と一緒にる方がいいかは、自分で決めなさい」
 彼女はヴェノムを見つめ、こくりと頷いた。
「考えるまでもありません。お城に参ります。私はまだまだ無知で半人前で、人に迷惑をかけてしまいます。お姉さまに教わりたい事がたくさんあります。お料理だって、男性のハウルさんの足元にも及びません。このままでは、よくないと思うんです」
 セルスが少ししょんぼりしている。
 その場限りならともかく、勉強よりも色恋に目が眩んだ選択をするほど馬鹿な女ではない。
「それがよろしい。あなたには花嫁修業も必要でしょう。夏の嘆きの浜はとても肌に悪いですし」
 二人は頬を朱に染め俯いた。
 手を握り合っているところから、今のところはヒルトアリスの方も意識しているのだろう。
「アヴェンダも何かあったら連絡を下さい。私はどんな短期間でも自分の教えた子は我が子だと思っています」
「はい」
 ヴェノムは彼女の頭を撫でて、先に馬車に乗り込んだカロンに手を引かれて乗り込んだ。
 最後にハウルが乗り込むと、皆に手を振った。
 小さくなり、見えなくなると足を組んで伸びをする。
 これから少し女っ気の減った屋敷の生活に戻る。
 ただそれだけだ。
 それだけではいけないと思っているが、もうしばらくは、今のままでもいいだろう。
 もう少しだけ、ヴェノムに子供扱いされる自分でいたい。


2部完

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