背徳の王

9

 ボクは領民のために動く領主だ。
 支配とは緩すぎず絞めすぎず、よい加減で行えば問題が起きにくい。
 ボクはこの世界で有数の『力』を所有する人間だ。しかし人間だから弱い。完璧ではない。神子は強いが簡単に死ぬ。
 病で死に、不慮の事故で死ぬ。
 だからボクはボクのために治安に気を配り、医者を育てる事にした。幼い頃、父にねだって医者の学校を作った。優秀な医者を金にものをいわせて集めた。
 それは後に莫大な利益を生む事になったけど、ボクはもうけなど考えていなかった。
 ただ、病で死んだ使用人の存在を知って、年を取れば病に犯されやすいと知って、ボクのためにやった。
 ボクが自分のためにやった事なのに、領民達も喜んだ。金持ちが集まるから、住居に、食事に、使用人に、雇用の拡大で人々は豊かになり、ボクはいい領主になれた。
 領民達はボクが街に出て、声を掛けると喜んだ。無邪気に笑うふりをすることも学んだ。
 彼らは喜ばせると、協力的になる。
 ボクを好きでいれば、ボクを傷つけようとはしない。
 治安がよければ、ボクが一人歩きする事も出来る。
 だからボクは良い領主で在り続ける。
 良い領主だと、結果的に皆がボクを守る壁となる。一度、悪い男に捕まりそうになったところを、領民に助けられた事もある。もちろんペット達がいるから傷一つ付く事はなかったのだろうけど、それよりも前にみんなが助けてくれた。
 だからボクはここが好きになった。
 ボクを愛してくれるなら、ボクはそれに相応しい行いをする。
「みんな、調子はどう? お薬は効いている?」
 ボクの問いに、入院患者の男の子が元気に飛び起きるが、ベッドに縛り付けられていた治りたての身体はその動きの激しさについて行けずに倒れる。危ういところでロバスに支えられ、彼はでへっと笑った。
 予想通りに病は流行り、先に予防をしていたボクはけろりとしている。魔物達が保護してくれているのもあるだろうけど。
「無理はダメだよ。でも、薬は効いているみたいだね。こんな時のために、みんなから集めた税金で医者を育ててるんだから、ゆっくり休んで早くよくなるんだよ。君も立派な働き手だからね」
 ボクの言葉に彼はこくりと頷いた。素直な子供は好きだ。善良な領民の善良な息子。悪さと言えば、好きな子に虫やトカゲを見せて追いかけ回す程度の、普通の男の子。
「おじいちゃんも、早くよくなって畑の手入れが出来るといいね。経験豊富な人がいないと、きっとみんな大変だよ」
 ボクは人間をよく見ているから、人間をよく知っている。
 領主であるボクが直々に励ましに来ることは、いくつもの意味を持つ。
 それほど深刻な病ではないことを、ボクが証明してやれる。彼らもまさか、他の国ではたくさん死んでいる病だと、今は思われないはずだ。この病気の特効薬は、この時のために材料を買い占め、事前にたくさん準備しておいた。余剰分は調合したものをかなりの高額で他所に売っている。
 この病でボクに損な事は一つもなかった。
 ケトルも似たり寄ったりの事をしているから、ボクらはと言うべきかな。
 だから領民達のほとんどは、ボクが何をしたかを後から知るだろう。
 それで隠居した金持ちがまた入ってくる。金持ちの老人がいれば、人手は必要になり、女が職にあぶれる事もない。路に女が立たなければならない場所は治安の悪い場所だ。
 ボクは民の信頼を得て、儲けて、ボクの力をより強くする。
 ボクは強いけど弱い人間だから、力はあればあるほどいい。それでもボクを殺せるモノがあるならば、ボクは大人しく諦めよう。
 それも癪に触るから、子供の内から全力でボクを守る足場を固めているんだけれど。
「でもウル様、入院までして本当にタダでいいんですか?」
 病室の一人が心配そうに尋ねた。
「いいよ。うちの税金が決して安くはないのは、こういう時のためだよ。お金を取って病院に来ない人が増えたら、伝染病が広まる一方でしょ。隔離の意味もあるんだよ。倒れた人が多い分、健康な人にはバリバリ働いてもらわないといけないからね」
 領民であれば平時から医療補助を出している。格安で医者にかかれる。搾り取るのは、他所から来たジジイども達からでいい。ただし、伝染病だけは今この領内に偶然いた者に関してだけは、治療と入院をタダで行っている。病を領内にまき散らされてはたまらないから。
 もちろん金を払わない限りは領民よりも粗末なベッドだが、それでも薬とベッドが用意されるのだ。他ではあり得ないだろう。
「みんなよくなっているから安心したよ。ボクの集めた医者達は、ちゃんと仕事が出来ていると分かったね」
 ちゃんと薬が効いているのが分かった。薬の無い場所では、こんなに明るい病室などありえないと、魔物達を偵察に出しているボクはよく知っている。
 ボクはボクの領民以外がどうなろうと知った事ではないが、ボクの領民の状態が良好である事が分かるのが嬉しい。

 ボクは裏口から病院の外に出た。
 そこから歩いて正面にまわり、病院を観察する。
 外はさすがに少し活気がないけど、四人に一人が死んでいる外に比べれば、ここは活気に満ち溢れている。
 外から安全を求めてやって来た金持ちどもがいるから、景気はよい。
 ただ、金持ち以外も流れ込みたがるから、治安に不安があった。
 無料で入院できるのは、領民と偶然居合わせた、関所でちゃんと手続きを取って入ってきた者だけとも知らずに、のこのこやって来てはなぜ見捨てると暴れるのだ。
 今日もまた、病院の前で暴れる馬鹿な親を見て、ボクはため息をついた。
 このままほっとくのは、制度を作った者としては心苦しい。本当は、彼女たちだって疲れているし、疲れていれば感染する確率も高くなる。
 守衛と言えども大切な人材だ。倒れられては困る。
「君たち、とっとと出て失せなよ」
 ボクは良い領主だが、それは内側だけにだ。害虫にまで優しくない。
「タダで手厚い治療が受けられるのは税金払っているからだよ。領民達はもとより、通行人達も通行料を支払っている。だから保護する。
 でも君達がお金を払っているのはここじゃない。君たちが頼るべきは君達の主だ」
 なんの関係もない連中が、ボクの医者達を困らせて、ボクはとても不愉快だ。だから声を掛けた。似たような手合いがたくさんいるから、大きな声で。
 彼らはボクを見た。
 ボクは幼い領主だから有名だ。しかも噂は様々。殺人鬼だの、不老の魔女だの、誰にでも手を差し伸べる聖人君子だの。
「ウル様、申し訳ありません。お見苦しいところを」
 守衛が深々と頭を下げ、慌てた様子で中から医者が出てくる。彼らはボクに謝罪して、害虫どもをどこかに連れて行こうとしたが、ボクは首を横に振って拒否した。
 ロバスがボクの斜め前に立ち、殺気立った病に冒された害虫の身内を見た。
「あんたが領主かっ。
 どうしてうちの子を診てくれないんだっ」
 子供を見せ、同情を引こうとする。
「診ないはずがないよ。ちゃんと手続きを取るなら。決して高くはないのに、何をごねているの?」
「他所に住んでいても、タダで診てくれるんだろう! 他の奴はよくて、俺達はなんでダメなんだっ!」
 馬鹿な事を言う。
「君たち、ちゃんとした手続きを取らずにボクの領土に入ってきているでしょう。今は外から入れるのはごく一部。勝手に入ってきた君たちは通行料も払わない、たただの犯罪者だ。投獄されないだけありがたく思って欲しいな」
 ボクにとっては今すぐすべて殺させたいぐらいだ。流血沙汰になれない領民が見ているから、押さえつけているが、とても不愉快。
「だからって、何もこんな扱いをする事はっ」
「だから、ちゃんと手続きを取ってから領内に入って発病した場合は、この病を流行らせてしまったこの土地の責任だから、客人をもてなす意味も込めて看病させる。
 でも君たちは、発病してから不法侵入したんでしょ。だったらまったく逆だ。病を持ち込む疫病神。だからちゃんと正規のお金を払うべきなんだよ。法外な料金でなくて、扱いに応じた適正な価格にゴネるなんて、ふざけないでくれないかな」
 金持ちならばホテルのような豪華な病室もあるし、貧乏人なら一部屋にまとめられる。
「薬も人件費もタダじゃないんだ。それでももうけを度外視した値段なのに、君たちはボクの領民達に施しを強制させようとしているんだよ。この病院には領民から集めた多額の税金を投入しているんだ。君たち、ボクに税金を払ってないでしょう? だったら、払っている相手に言うべきだよ。ただ、君達だって、飢饉で食べる物も無いとき、自分の食料を分け与えるとは思わないけどね」
 食料に関してはこれからだ。ボクの領内でもけっこう働き手がダウンしている。ここは年寄りが多いから、その面倒を見るのに若い人の手が裂かれる。足りなくなる事はないが、欲しがれるだろう。
「ボクはどれだけ怒鳴られても、ボクの領民と領に益をもたらす者達のことしか責任は負わない。ボクはボクの領民達の主だから、領民のためになる事しかしないの。君たちを受け入れたら、後から後からウジみたいに沸いてくる物乞いどもも相手にしなくちゃいけなくなる。治安は悪化し、構ってもらえない奴らは怒って暴れる。だったら始めから扱いを統一しておかないと泥船になるんだよ。分かる?」
 少し考えれば分かる事だ。自分がいっぱいいっぱいで、他人を助ける馬鹿はいない。しかも、知り合いでもなんでもない、助けろとわめくだけの相手だ。
「領民と同じように扱って欲しければ、領民になる事だね。ただし、戸籍を移して治療を受けた場合は、最低でも三年間は移籍できない。逃げたり他所の場所で暮らしていたりしたら、補助金詐欺で牢獄行きだよ。タダより高いモノはないって言葉、よく考えた方が良い。ここは他よりも地価が高いからね。なんの特技もない人が外から来ても、生きていける場所じゃない」
 だから元から住んでいる土地を持つ人達にとっては住みよいが、他所から来ると土地も家賃も高くて楽をしようという連中は居座れない。野宿は禁止しているから、浮浪者など出たらすぐに保護か逮捕される。
 保護は、行き倒れの場合だ。
 ボクは病以外の理由で働かない者には容赦ない。
 ボクが病院の前で仁王立ちしていると、ようやく衛兵達がやって来た。
 護送用の馬車で。
「君たち、お金がないなら、あの人達がタダで送ってくれるから、とっとと帰りなよ。ここで騒いでいるよりも、その分の滞在費で温かい栄養のあるモノを食べさせた方がいい。移動させるなんて馬鹿な事をするから死ぬ事になるんだ。薬があろうと無かろうと、医者がいようといまいと、弱った者が死ぬんだから、その子供は助からない。薬飲みました、ハイな治りました、なんて死病は存在しないの。
 ここの人達は、あらかじめ予防もしていたからみんな助かっているだけだよ。そんなに弱った人間助けろなんて言われても、ボクの医者が困るだけだよ。投獄されたくなかったら、大人しく帰れ。君たちみたいなのをほっとくと、泥棒になるから迷惑なの」
 それだけ言って、ボクはオニスに残るよう命じて病院を後にした。彼は差別され、貧しいながらも字を学び、試験に合格して医者になった男だ。世の中舐めた彼らとは違う。

 他所者は厄介だ。ボクのためにならない欲の亡者がほとんどだから。
 病院から出て、馬車には乗らずに路地を歩いた。魔物達から報告は受けているが、お馬鹿さんが多いので、ちゃんとこの目で確認する骨も必要だ。ベルがやってくれているが、彼女はこの前までばあやの看病で忙しかった。弱っていたから、病にかかってしまったのだ。
 だから彼女も街の様子を見るのは久しい。
 手を打っておいて本当によかったと、ばあやが寝込んでいる姿を見て思った。
「ねぇ、ちょっと」
 ボクは走って追い抜かそうとする少年に足をかけて止めた。転んだが、気にしない。
「あ、ボク、生まれて初めて誰かに怪我をさせたかも知れない」
「ええっ」
 ベルが大袈裟に驚く。
 それはほっといて、転んだ男の子が立つのを待った。
「な、なにしやがるっ」
「言いたい事が分からない?」
「いきなり足を引っかけて、何が分からないだっ! 分かるかよ!」
 彼はボクの事を知らないから、彼は食ってかかる。
「怪我したじゃねぇか、どうしてくれるんだっ」
「君、親は? 一人で来たわけじゃないよね。よそ者じゃなきゃ、ボクにそんな口は効かない」
 ボクは少なくともこの街では有名だ。そして今、他所の街の子供だけがこの街にいるはずがない。
「親でもなんでもいいけど、君の保護者は?」
「死んだよっ」
 彼は顔を背け逃げようとするが、ベルとロバスが行く手を塞ぐ。子供一人逃がしていたら、ボクはこの二人を捨てねばならない。
「ウル様、そん子がどしたんすかぁ?」
 間延びした声で領民の男が話しかけてくる。彼は確か靴職人だ。
「スリだよ。ほら、あのおばあちゃんの財布をすったの」
 ようやく僕らに追いついたおばあちゃんを指さす。
「スリ! ばあちゃん、財布はあるかぁ」
「はえぇ、財布? おんやぁ、ない。財布がないっ!」
 のんびりしたおばあちゃんは、のんびりした口調で慌てて財布を捜す。
 近くにいた人達が男の子を囲み出す。
「誰か、衛兵呼んできて。この子、親が死んだみたいだから、引き取り人もいないみたいだし」
 ベルが彼のポケットから財布を取り出しておばあちゃんに返す。
「そんな小さな子を役人に突き出すんですか。親が死んでしまったというのに、無慈悲では」
 知らない男がボクに声を掛けてくる。知らない男だ。彼もまたここの住人ではないようだが、大人で、一人で、健康そうなので害虫の類ではないらしい。
「窃盗の現行犯だよ。誰だろうと法の裁きを受ける必要がある。子供だからと見逃していては、外から来た貧乏人が子供に盗みをさせ始めるよ。
 これにここで逃がして、引き取り手のいない子供がどうやって盗み以外で生きていくの? だったら衣食住揃った施設で更生させた方が良いよ。強制労働っていうと聞こえは悪いけど、使えない人間に技能を与える職業訓練もするんだから」
 もちろん、軽犯罪だからこそ、再犯防止のためにやるだけだ。ただ鞭で打つだけではまたやるし、罪以上の罰を与えては人々の反感を買う。
 どうせ引き取ってくれる身内なんて、今はいないだろうからまあこれでいい。もし引き取り手がいるなら、引き取りに来るだろう。この領内に正当な理由で入れるなら、入りたいと思う者は多いはずだ。
「ああ、来たね。ボクらは帰ろうか」
 ボクはてくてくと歩いて帰る。歩くとまだ少しかかるけど、運動も兼ねているからこれでいい。

 帰途の中ほどで、なにやら騒ぎが起こっているのを見た。
 ボクは近づき、おじさんの服を引っ張って何事か尋ねる。
「ああ、ウル様。実は昨日の夜に殺しがありまして、犯人のよそ者を、婚約者のにいさんたちが」
「今度結婚するはずだったのに、本当に可哀相で……」
 ふぅん。
「最近の連続強姦事件とは違うのかな?」
「それもきっとあいつの仕業ですよ。前から怪しいと思っていました。よそ者がこそこそと夜中に出歩いていましたから」
 最近、連続で起こっているらしいから、ボクも気にしていたところだ。ボクのペットはそういうのが正当かどうかの区別がつかないらしく、あまり役に立たない。相手が嫌がっているから、外だからとか、そういう事で区別は出来ない。望まない結婚だってあるし、若者の冒険だってある。
 しかし殺しまで起きるとは、ウジ虫どもは本当に害虫にしかならない。
「ちょっとどいて」
 ボクは人をかき分け、中心にたどり着く。
「なにしてるの?」
 見たままを表現すると、よそ者の男を私刑にしている領民達。
 私刑はよくない。
 が、もっとよくない事がある。
「ウル様、この男が、この男が俺の婚約者をっ」
 婚約者だという男が憎悪を纏い声を荒げて訴えてくる。
 涙を流しながら絶望を憎い相手にぶつけ、それでも足りず、髪を振り乱し、ボクに訴える。
 その訴えに、ボクは首をかしげる。
 よそ者には違いないが、この男は知らない相手ではない。顔ぐらいは知っている。
「ねぇ、なんで君が疑われてるの?」
 ボクは倒れている男に尋ねてみた。彼は顔を上げ、強い目でボクを見る。
 踏みにじられ、それでも折れぬ、恨まぬ態度を貫く善者の目。
「なんでこんな弱い人達に殴られているの? 君、とっても強いって聞いたけれど? それとも嘘で、本当は逃げ足が速いだけ?」
 本当に不思議で、ボクは尋ねる。口を切っているのか、男は答えない。
「ウル様、この男をご存じで!?」
「うん」
 私刑を加えていた一味の言葉を肯定すると、その場にいた全員が固まった。
 皆の視線は、ボクと一味を行き来する。
 私刑はいけない。でもよそ者が悪いなら、彼らは責められない。だって、よそ者を入れてしまったのはボクの力不足だから。でも、そうでなかったら。
「君達はどうしてこの人を犯人だと思ったの?」
「ウル様のお知り合いであっても、その男は夜に街を歩き回り、現場から逃げていったのは間違い有りません。私の友人がそれを証明してくれます」
 婚約者が壊れてしまう寸前の、かろうじて理性の残る言葉を発し、ケケケと笑う。可哀相に。
「確かに彼は夜、外に立っていたかも知れないけど、目当てはボクだよ。彼が彼であるから、女の子に乱暴するなんてことはない。それに、外にいる時はボクの部下に見張らせてたから、絶対にないよ。彼は一度も走ってないから、彼を目撃して逃げたなんて思うはずがないんだ」
 ボクはニコニコ笑いながらみんなを見回す。
 証人がボク。反論なんてできない。
「で、どうしてこの人に罪をなすりつけたの? そこまで言うからには、理由があるよね? ねぇ、逃げる男を目撃したというなら、その人は犯行時刻、現場付近にいたって事になるよね? なんで?」
 視線が一人の男に集まった。
 何が原因かなんてボクには関係ない。事実だけがここにある。
 ボクは鼻で笑った。
「外から犯罪者が来るからといって、彼らだけが罪を犯すわけじゃない事を、みんな忘れちゃいけないよ。気のゆるみの切っ掛けになっているかもしれないけど、それでも罪は罪だから。
 このボロボロの人はボクのせいでこうなったようなものだから、責任を持って預かるよ。その卑怯な人殺しは、みんなの好きにしていいよ。
 罪人に最も相応しい罰っていうのは、やられた事を返してあげることだからね。辱めには辱めを、私刑には私刑、死には死を、でいいと思うよ。ボクは領民には平等だから」
 なぜ友人の婚約者を殺したかなんて知らないけど、復讐したければ復讐すればいい。この身勝手な人殺しはそうされるだけのことをした。殺して、罪を着せて、自分だけは綺麗なままで。
「この人が裁かれる前に口を封じようとしたところからして、弁解の余地もないし」
 その後、どうなったかなんてボクは知らない。
 真犯人が捕まり、許可を与えた。すべて彼の仕業のようだから、これで少しは平和になる。
 ロバスが転がる男を嫌々ながらも抱きかかえる。血で汚れるのに不満を持つだろうが、洗濯はメイドの仕事だ。
 オニスもすぐに戻ってくるだろうから、手当は彼に任せればいい。
 そうすればボクが果たすべき責任は終わりだ。他の誰かなら、お金を握らせるんだけれど、この人には無駄だから、それだけでいい。
 今日も、ボクは良い領主だった。
 やるべき事はやる、領民のためになる良い領主。


 

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