1.5話 
 あたしは東堂慶子。
 最近、うちに天使が二匹住み着いている。
 天使と言っても、別にありがたみもない。害はあるかもしれないけど。世間知らずな馬鹿二人に、あたしはものを教えてやらねばならないのだ。
「なあなあ。どうしてこいつらは口をひっつけているのだ?」
 天界とやらの次期統治者候補であるフィオが尋ねてくる。穢れなく育てられた穢れを求める変わり者だ。彼を汚さぬように俗世を教えてやるのが最近のあたしの楽しみである。
 宿題から顔を上げれば、彼はドラマの再放送を見ているらしい。しかもラブストーリーである。幸い過激なシーンはないと安心して見せていたのだが……。
 キスの事をどう教えよう。
「……ええと、その。ほら、あれよ。夫婦がする儀式よ」
 洗濯物をたたみながら、もう一人のマッチョな居候がこちらを白い目で見ていた。どうせまた始まったとでも思っているのだろう。
「夫婦ではないぞ」
「今の若い子は手順を踏まないから困るんだよね。
 まあ、恋人同士ならいいんじゃないかな」
「あれは何のための儀式なのだ?」
「永遠の愛を誓うのよ」
「永遠の愛?」
「そう。その人と一生添い遂げる約束をする儀式なの。これを破ると、相手にどんな風に殺されても文句言えないのよ」
 ディノがばさっと買ったばかりのフィオの下着を取り落とし、慶子を変な目で見ている気がする。
「……怖いな」
 フィオは信じてぶるっと震えた。彼はとても素直で何でも信じてしまう。
 彼と言っても、両性具有で半分女の子なのだが、中身は意外に男の子に近い気がした。女の子化を計画しているのだが、なかなかそれも上手くいかない。ただし、洗脳だけは上手くいっていた。
「愛って言うのは美しく、同時に怖いものよ。あんたにもそのうち死んでもいいぐらい好きな人が出来るといいわね」
「……怖いからいい」
「でしょ。あんたにはまだ早いのよ」
「慶子にはいないのか?」
「はっ。あたしぐらいになると、医者や弁護士クラスの職業で、家にはほとんど帰ってこなくてそれでも他所に女は作らなくて、しかも贅沢させてくれるぐらいの男じゃなきゃ」
 理想である。顔は二の次だ。性格もある程度は悪くてもいい。
「……慶子殿。楽しいですか?」
 筋肉隆々の天使に見えない天使、ディノが呟いた。
 吹き込んだデタラメやあたしの理想の男性像になにやら文句があるらしい。
「ディノさん、いいの?」
 本当の事を言ってしまって、試してくると町にこの子が出かけてしまっても。
「好きなだけ言ってください」
「でしょお?」
 最近、あたしは騒がしい連中に囲まれて、結構楽しく暮らしている。

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