11話  あたしと猫とお犬様

動物視点2

 二匹は向き合い互いを見つめ合っていた。
 オーリンといえば、二人の会話に驚いて思わずついてきてしまった。
『久しぶりだね、黒衣』
『会いたくもなかったがな』
 黒衣という猫は自分よりも大きな犬へと悪態をつく。
 二人は音で会話をしているのではなく、心の中──思念によって会話をしている。伝えるべき事だけを伝えるというのは難しい。心に思うことなので、ついよけいな事まで伝えてしまうことがある。オーリンのようにそのようにしか相手に意志を伝えられない生物であれば、時と共に完全に制御できるようになるものだが、彼らもそのようなものなのだろうか。
『ところで、なぜあいつらは皆で私たちを見ている?』
 あいつら──背後から突き刺さる複数の視線が黒衣には気になるようだ。オーリンは見られることには慣れている。天界ではいつもフィオの聖獣だという印を付けていたので、どんな姿の時にも見られ、敬われていた。フィオは天界の中でも最も特別な存在であったのだ。
『うちの子達は気になるからだろうし、慶子達は動物が好きだからだろう。私たちは彼女たちからすれば小動物でしかない』
『……ふん』
『沈黙しているのもあれだから、何か口にしよう』
 黒衣は頷き、まずは明から始まった。
「わん」
「にー」
「…………」
 オーリンは言葉をかけたくても、この奇妙な内容のない会話に戸惑い声をかけ損ねた。
「わん」
「にゃ」
「…………」
 二人は多少のむなしさを覚えながらも会話を繰り返した。鳴き声を発することができたなら参加したいものだが、音というものは彼らには存在しない。
「が、がんばれオーリン」
 フィオがオーリンへと応援の言葉を発した。
「別に弁論大会じゃないから頑張る必要ないでしょ」
 慶子にはこの『声』は聞こえない。彼女は初めは恐かったが、今でも少し恐いが、しつけはとても厳しいが、元の姿を現さなければ優しい。つい手を伸ばした時も、彼女はぴしゃりと叩いていさめるが、手を出してしまっても、思い出してすぐに引っ込めるとほめてくれる。
 彼女が恐いほどそうする理由は、もしも他人に見られたら大変なことになるからだと言っていた。同じ理由でフィオが羽根を見せても怒る。フィオは可愛いので変な男に付けねらわれる可能性が高く、その男に見られたら弱みを握られることになると。
 最近はそんな彼女の性格が分かってきて、どのようにすればいつも笑っているのかも分かってきた。
 彼女は基本的には底なしのお人好しなのだ。だから彼女の発言に悪気はない。
「でもでも、オーリンだってきっと発言したいはずだ。でも、オーリン恥ずかしがり屋だから」
 フィオはオーリンを信じて言った。
 だから頑張れと。
 オーリンは心に決めた。
『あの……』
 声をかけた瞬間、明と黒衣がぎょっとしてこちらを向いた。
『ああ、通じた』
 慶子には一度も通じたことがなかったので、思わず安心してしまった。今でもなかなか伝えにくいのだが、両者の感覚が鋭いので届いた。
『オーリン、なんだ話せたのか』
『はい。慶子さんに通じないから、てっきりこちらの方には通じないのだと思っていました』
『慶子に通じないのは、彼女の能力のためだよ。そうか……話せたのか』
『言葉を向けないと届かないようですが』
 オーリンはほっとした。今までフィオにのみ向けていたので、両者は気づかなかったのだろう。
『何か用があるのかい?』
 明は優しく問う。それに勇気づけられて、オーリンは二人へと尋ねた。
『あなた達は何者なのですか? こちらではあなた達のような者は常識ではないようですが』
 心配だったのだ。フィオの生活する環境に、彼らのような常識にはずれる生物がいること。扉も使わずに異界の者を呼んでしまう技術。それを慶子は驚いていた。つまりは知らなかったという事が、オーリンにとっては不安として胸にしこりとなっている。
 慶子自身はフィオを任せるに値する人物だが、その周辺の不安要素が多すぎるのだ。
『僕らは……』
 明が言おうとした時、彼は突然大樹を見た。
「夜依ちゃんは黒衣とはどうして知り合ったの?」
 黒衣が夜依という少女を見た。
「変な人に狙われている時、助けてもらったの。両親がほとんど家にいないし、タマが死んでからは一人で寂しかったから、ずっといてくれるって」
「タマっていったのか、前の。でも前のも猫だったんだね」
 タマというと、フィオの見ていたアニメの猫がタマという名前だった。タマは猫に多い名前なのだろう。
「ううん。カメよ」
「亀!?」
 明と黒衣、そして人間達が皆同時に声をあげた。
 一人平然としている慶子は、きょろきょろと周囲を見回して、やがて顔をしかめながらも夜依を見た。
「夜依って、ネーミングセンス変なのよ。前に拾った蛇にはポチって名前つけるし」
「変かなぁ? 可愛いと思うんだけど」
「変だって。あの樹さんまで変な声出してたし」
 慶子は同時に声を聞いたため、庭から声が聞こえたことを勘違いだと思ったのだろう。それを感じ取り、ごまかすように明と黒衣が鳴いた。
「わん」
「にゃあ」
「…………」
「わん」
「にゃあ」
「…………」
 しばらくすると人間達は飽きて部屋の中へと引っ込んだ。慶子は窓を閉め、鍵はかけずに窓際から去る。視線がなくなると、二匹は安堵の息を漏らす。
「危ないところだったねぇ」
 明はそれを口にした。
「…………亀……か。亀か。亀だったのか……。しかもタマか」
「よかったねぇ、彼女に直接名付けられなくて」
「私に変な名前を付けた貴様が言うな」
「カッコイイじゃないか、黒衣。クロよりはずっとカッコイイ。名乗った時も女の子受けがいいよ?」
「私が付けられた名はクロだ」
「それは昔のことだよ。クロと呼ばれるよりも黒衣と呼ばれる頻度が多くなった。だからお前の名は変わった。名は体を表す。お前には黒衣の方がふさわしい。
 飼い主だけがクロと呼んでいればいいだろう」
 黒衣は小さく舌打ちをする。
 オーリンはそんな二人の会話を聞き、押さえがたい不安を感じた。
『あなた達は、一体何者ですか?』
 話す動物などあり得ないと慶子は言っていた。
 人間以外は話さない。それがこの世界の常識であるはずだ。慶子は嘘つきだが、大切なことで嘘をつくことはない。フィオにいらない知識を与えないようにする時にのみ嘘をつく。これは嘘をつくべきことではない。
「この世間で黒衣のような者は『鬼』と呼ばれている。天界に天敵はいないから、例えようもないから困るね。
 生物の精気とか呼ばれるものを食べる者を皆そう呼ぶ」
『精気? 夢食いのようなものですか?』
「似たところかな。摂取方法は彼らのようにスマートではない。直接肉などを口にしなければならない。つまりはそのままの意味で食べる。精気を多く持つのは人間などの知能の高い者だ。その点で精気と呼ぶにはおかしいのだが、他に言葉を探すのも作るのも面倒だし、言葉を変えても行き着く先は一つだからね」
 オーリンは平然と言う明に恐怖した。それを平然と聞く黒衣にも恐怖した。
「人聞きの悪いことを言うな。私は人を食わないぞ」
「そうだね。君が人を食べたのは一度だけだったね」
「黙れ」
「僕は君のことは高く評価しているよ。人間などどうでもいいと言いながら、君が好きになるのは人間だ」
「失礼な。私は人間だから夜依を気に入ったのではない。夜依だから気に入ったのだ。そして夜依が偶然人間だっただけだ。同族よりも、人間の方が多いのだから、確率としては人間の方が高い。それだけだ」
 ただふてくされたように見える彼は、心中穏やかではないようだ。
 彼の心の痛みが伝わってくる。
「君は相変わらずだ」
「お前に言われたくはない」
「僕は時代に合わせて常に変わっていると思うけど?」
「言葉じりが多少変わったぐらいで変わったか。そうなら私もずいぶんと変わったぞ。くだらない」
「相変わらず、気の強い子だな」
 黒衣はふいっと顔をそらし、自らの毛繕いを始める。
 猫らしいその姿をオーリンはつぶさに彼を観察する。より猫らしい行動を取れば、保も喜んでくれるからだ。
 それから二人はしばらくの間、意味もないおしゃべりをしていた。


 相手の腹立たしいことは、自分が鬼となる前から自分のことを知っていることである。
 彼を飼っていた人間の女は、明の関係者であったらしい。
 気づけばいつも彼女と共にいて、首には小さな鈴を付けられていた。今の姿と変わらぬほど、幼く何も理解していなかった時。目覚める前。汚れなき頃。
『黒衣さん?』
 オーリンという、正体不明の生物が話しかけてきた。
「何だ」
『猫というのは、鈴をつける物なのですか? フィオ様が見ているアニメの猫も鈴をつけていました』
「別にそうしなければならないわけではないが、そういうことも多い」
 首にある今は見えぬが、それをつけている自分を思うと、ほんの少し憂鬱になる。
「本当に可愛い首輪だね、黒衣」
「黙れ。夜依の趣味だ。文句があるのか?」
 赤い鈴のついた首輪。首輪には丁寧にもクロの名前と電話番号が書かれている。
 彼女は『タマ』にも同じ事をしていたのだろうか。
 馬鹿な動物でもあるまいし、帰れなくなるなどということはない。野良猫として保健所に捕まろうものなら知り合いに笑いものにされるのは目に見えている。
 もしもの時は、いっそ本来の姿に戻れば万事解決する。
 なのに彼女は当たり前のように首輪を用意し、当たり前のように迷子になった時のための対策をした。
 馬鹿ではないはずなのだが、どこかずれている。それが彼女の可愛いところである。
「でも、可愛い子だね。慶子の友人だけあって、性格も良さそうだし。いい子を騙してひどいことをしてはいけないよ?」
「誰がするかそんなこと。お前のところの女好き一族でもあるまいし」
「言われるとその通りなんだよね。ははは」
 あまりの言いようにクロは憤慨した。人間やその他貪欲な者達と同じ目で見られるのは不愉快である。
『黒衣さんは誠実なんですね』
 この未知の生物の方がよほどわかっている。
 クロは神と呼ばれながらも欲深い犬を睨み付けてやる。
「君の美点は真面目だからね。でも、だから彼女の一人もできないんだよ」
「いないのではない。作らないのだ」
「そんなこと言ってると、彼女を誰かに取られてしまうよ?」
「そんなことがあれば私が排除する。何の問題はない」
「さらっと彼女をいきおくれにさせる事を言ったね、君は」
「何の問題がある。別に命までは取るつもりはないぞ?」
「……選ぶのは彼女だから、突っ込んだことは言わないけどね」
 当然だ。他人に口を出される問題ではない。これは夜依とクロの問題である。
『あの、明さん、黒衣さん』
「なんだい?」
 オーリンは上目づかいで明を見つめた。
『もしよかったら、時々相談に乗ってもらえますか?』
 クロは耳を疑った。明だけならともかく、なぜクロまでその相手になるのか。
『私はこちらについては知識がまだまだ足りません。それではもしもの時、フィオ様を守ることができません。お二人ならこちらのついても、人間についても、危険についても知っていると思います。もしご迷惑でなければ……』
 彼も色々と思うところがあるらしい。
 クロにも覚えのある感情だ。目覚めた時、視界が一転した時、猫のそれから変化する時。彼の中の当たり前が当たり前でなくなり、彼の知らない世界が広がっていた。
 もう、遠い昔の話。
「それぐらいなら。夜依の友人の家なら、また来ることもあるだろう」
 クロはすまし顔で答えた。
「そうだね。あまりここに来ることはないけど、それでもいいならかまわないよ。とは言っても、僕らのような者に出会ったら、まず逃げろとしか言いようがないけれどね。普通の人間なら、君が恐れる事はないだろうから」
 オーリンの場合、知りたいことがあっても聞ける相手が制限されている。慶子が側にいては周囲に言葉が届きにくいだろう。慣れていなければ聞き取れない可能性が高い。
 かといって、慶子のいない場所で、他人に問いかけるわけにもいかない。人間に化けて話しかけたら気づかれない可能性も高いが、彼の知りたがるようなことを聞けば怪しまれるのは間違いない。
『ありがとうございます』
「いいよ別に。君も慶子にとっては家族だからね。慶子はうちの子の誰かのお嫁さんになってもらう予定だから、慶子が悲しむような状況になるのは僕の本意ではないんだよ」
 勝手に嫁認定されている彼女は哀れである。まだ高校生なのだ。結婚についてはそれほど考えていないだろう。隠されていることから、この一族のことを知っているとは思えない。
 その時だ。
 がらがらと庭に面した窓が開いた。
「ほーらごはんよ。いらっしゃい」
 三人は驚いて同時に振り返る。
 慶子が雑巾を持って立っていた。
(雑巾……)
 明はしっぽを振って彼女の元へと歩くと、当然のように前足を差し出した。慶子はその足を雑巾でぬぐう。明が終わったので、渋々とクロもそれにならった。その時大樹と樹の視線が針のように突き刺さってきたが、気にすることではない。クロはただの愛らしい黒猫である。
 オーリンまで終わると、樹が慶子に声をかけた。
「慶子……綺麗なようだが、明様の足をぞうきんで拭くな」
「いいじゃない。ねぇ。ぞうきんは元々はタオルだもの」
 慶子は明をぎゅっと抱きしめた。女好きな明は嬉しそうにしっぽを振り続けている。その幸せな姿を見て、クロも主が恋しくなり夜依の元へと走る。夜依は両手を広げてクロを抱きとめた。
 大きくも小さくもない胸に抱かれ、クロはくあっとあくびをした。久々に他人と話したので、安心したら眠くなってきたのだ。
「…………くっ。動物の分際でお前ら……」
 悔しげにアヴィシオルが言った、小動物の利点など、せいぜい女子供に好かれるぐらいだ。それをのぞいたら何の役得があるというのだろうか。
「……馬鹿だなぁアヴィ。そんなの今更の事じゃないか」
 大樹は笑顔で慶子の胸にすり寄る明の頭をなでた。明は気にもせずにいるが、大樹の目には小さな嫉妬心が見え隠れしていた。誰かに固執する大樹とはなかなか面白い。
 そんな男達を見てルフトが言う。
「動物の姿になって女性にべたべたしてもらって嬉しいと思うのならすればいいじゃないですか」
 アヴィシオルならそれぐらいは可能であろう。彼の力は興味のないクロですら伝え聞いている。近くにいる今、その噂が真実であることも理解した。
「空しいだろ、それは」
 クロは夜依の腕の中で硬直した。
(む、空しいのか?)
 では自分が満足しているこの状況は一体なんなのだろうか。
 考えてみたが、夜依を見上げて、彼女が微笑み返してくれて、考えるのを放棄した。
 夜依は面白くて可愛い。その事実だけで十分だった。
「でしょう? そう思うなら文句を言ってはいけませんよ。そりゃあ呪わしくは思いますが」
 やはりうらやましいのか、ルフトはオーリンを睨んだ。フィオを守るべき立場にあるオーリンは、下心見え見えの妖精に静かな敵意を向けた。
「天界の聖獣だぞ。殺すなよ」
「そんな恐ろしいことはしませんよ。フィオさんの大切なお友達なんですから」
 そうでなければ、邪魔者として消されていた可能性もある。
 妖精とは意外に残酷な種族だと聞く。
(女を守り抜くのはいい心がけだが、なかなか大変そうだな)
 クロも苦労している故に、オーリンには同情せざるを得ない。これからはついでにフィオのことも気にかけてやろうと心の片隅に思った。
「なんかもう明様達は何でも食べるとして、ケイちゃん、俺はお腹すいた」
 大樹は腹を抱えてだだをこねるように言う。彼があのように甘えるなど、クロは今まで見たことがなかった。赤の他人なので当然なのだろうが、意外であった。
 それから、皆は食事をとった。


 家に帰ると、明は可愛い友人達に囲まれた。
 もちろん、この屋敷に何十頭といる犬達である。
「ただいま帰ったぞ」
 無類の犬好きである樹は、わらわらと寄ってくる犬達を撫でる。
「あ、兄さん達、明様お帰りなさい」
 風呂上がりなのか、濡れた頭をタオルで拭きながら真樹が廊下をやってくる。
「今日は遅かったね。結局夕飯食べてきたんだ」
「うむ。庶民の味もたまには悪くない」
 保と競うように食べていたくせに、素直ではない。しかし、彼にしてみれば最大の賛辞と言っていいだろう。
「……慶子さんも可哀想に」
 真樹はリビングへと向かいながら言う。
「なぜだ?」
「だって、樹兄さんは慶子さんをほめたことないでしょ? 家族でもないんだから、悪くないじゃ通じないよ」
「……そうなのか?」
「そうだよ。そんなんじゃ、まだ大樹兄さんのおおっぴらな女癖の悪さの方がマシだよ」
「……大樹はそんなにおおっぴらに何をしているのだ?」
 樹は顔をしかめた。他にも気になるところはあるらしいが、今の彼には大樹のことが一番気になったようだ。
「そりゃ、年上のおねーさんと遊び回ってる」
「それに何か問題があるのか?」
「…………」
 真樹は樹に見つめられ、視線をそらして明を見つめてきた。明は小さく首を横に振る。
 樹の場合、父親が愛人をよそに何人も作ってくるような家庭環境だ。母親は見つけるたびに縁を切らせるが、女の影は後を絶たない。そんな両親に育てられ、彼の感覚は麻痺している。
「樹兄さんか大樹兄さんと間違って結婚しちゃったら、慶子さん大変だなぁ。あっという間に離婚だろうね」
 明は頭の中でその流れをリアルに想像できた。昔から慶子だけは特別扱いしている大樹はともかく、樹の場合は目に見えている。樹の場合性格が修正不可能なほど歪んでいるので、慶子が嫁に来てくれる可能性は果てしなくないに等しいのだが。
「まっ、そーなったら僕が年下の特権生かして慰めながら……えへへ。いいよね、お義姉さんって」
 ちなみに一見純情なこの三男も、上の二人に同じく決してまともな感覚ではない。
「真樹、お前って……」
「いいだろ。夢見るぐらい」
「夢見るのはいいけどな、ケイちゃんにその本性悟られるなよ。ケイちゃん可哀想だから」
「そんなヘマするわけないだろ。慶子さんにとって、僕は純粋無垢で弟みたいな少年なんだから。そんな美味しいポジション、どうして自分から手放せるっていうんだよ」
 この兄弟は、どう転んでもこの兄弟である。
「我が弟でありながら、特殊な趣味をしているな、お前は」
「樹兄さんにだけは言われたくないな、それ」
「私は平均的だと思うが」
 己を理解しない兄の言葉に、真樹は笑いながらタオルでがしがしと頭を拭く。
 大樹はそんな兄弟を見つめながら、ふっとため息をついた。
 彼もなかなか窮屈な身の上である。

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あとがき